ラプサンフーチョンとは?
世界最古の紅茶の正体
紅茶の世界に深く魅了された者なら、一度はその名を耳にするであろう「ラプサンフーチョン」。
日本語では「正山小種(せいざんしょうしゅ)」とも呼ばれるこの紅茶は、一度飲んだら忘れられない、強烈な個性で知られています。その正体は、なんと世界で最初に生まれた紅茶という説を持つ、歴史深き一杯です。
その誕生は17世紀の中国・福建省武夷山。伝説によれば、戦乱の最中、軍隊が茶工場に駐留したことで通常の製茶工程が中断。
この偶然の産物が、後にヨーロッパ、特にイギリスの貴族たちの心を掴み、紅茶の歴史の幕を開けたと言われているのです。
これは、茶葉を松の薪で燻しながら乾燥させる伝統的な製法に由来します。
黒く大きく、荒々しい茶葉の見た目と相まって、「本当に飲めるのか…?」と一瞬ためらってしまうほどのインパクト。
しかし、ご安心を。その煙の向こうには、あなたを虜にする奥深い紅茶の世界が広がっているのですから。
一度知ったら戻れない、ラプサンフーチョンの魅力
「クセが強い」という言葉は、ラプサンフーチョンのためにあるのかもしれません。
しかし、その奥にある本当の魅力を知ってしまえば、もう後戻りはできないでしょう。
ここでは、多くの紅茶オタクを沼に引きずり込む、ラプサンフーチョンの魔性の魅力に迫ります。
- 燻製の奥に潜む「龍眼」の香り
- 香りの正体:科学が解き明かす燻香の秘密
- 味わいの特徴:見た目と香りを裏切るクリアな後味
燻製の奥に潜む「龍眼」の香り
ラプサンフーチョンの香りをただ「煙たい」と表現するのは、あまりにもったいない。
立ち上る燻製香の奥深くには、驚くほど甘くフルーティーな香りが隠れています。
それは、中国で珍重される果物「龍眼(リュウガン)」のドライフルーツに喩えられ、紅茶好きの間では「ロンガン香」として知られています。
この独特の甘い香りは、燻製に使われる武夷山周辺の松と、その土地で育った高品質な茶葉が持つポテンシャルが融合して生まれる奇跡のアロマ。
最初はスモーキーさに驚きますが、二口、三口と飲み進めるうちに、鼻腔をくすぐる甘い香りの虜になっていることに気づくはずです。
香りの正体:科学が解き明かす燻香の秘密
あの独特な燻製香は、科学的に見ると何から生まれているのでしょうか?
少しマニアックな話をすると、この香りの主成分はグアイアコールやクレオソールといったフェノール類の化合物。
これらは木材を燃焼させたときに発生する成分で、ウイスキーのスモーキーなピート香や、香ばしいベーコンの香りにも含まれています。
つまり、ラプサンフーチョンを飲んで「なんだかウイスキーみたい」と感じるのは、化学的にも根拠もみえます。
味わいの特徴:見た目と香りを裏切るクリアな後味
黒く大きな茶葉、強烈な燻製香。
日本茶アドバイザーパトラッシュ♂これだけ揃えば、さぞかし味も濃厚で渋みが強いのだろう…と想像するかもしれません。
しかし、一口飲んでみれば、その予想は心地よく裏切られます。
高品質なラプサンフーチョンの味わいは、驚くほどクリアで、渋みが少なく、後味はすっきり。
むしろ、茶葉由来のほのかな甘みさえ感じられます。



見た目はいかついのに話してみたらすごく優しい、そんな「ギャップ萌え」を紅茶で体験できるのです。この裏切りを知ってしまったら、もうあなたもラプサンフーチョン沼の住人です。
ラプサンフーチョンの真価を引き出す、美味しい入れ方
個性的なラプサンフーチョンだからこそ、入れ方一つでその表情は大きく変わります。
ここでは、その真価を最大限に引き出すための美味しい入れ方を3つのスタイルでご紹介します。
- 基本の入れ方(ホット)
- 中国茶式(工夫茶)のすすめ
- 水出しで楽しむクリアな燻香
基本の入れ方(ホット)
まずは基本のスタイルから。ラプサンフーチョンのシャープな香りとクリアな味を引き出すポイントは高温のお湯で短時間に抽出することです。
| 項目 | 目安 | ポイント |
| 茶葉の量 | 3〜4g | ティーカップ1杯(約150ml)あたり |
| お湯の温度 | 95〜100℃ | 沸騰したてのお湯を使いましょう |
| 蒸らし時間 | 1分〜1分30秒 | 長く蒸らしすぎると雑味が出やすいので注意 |
この方法で淹れると、燻製香がシャープに立ち上り、クリアな味わいとのコントラストを存分に楽しむことができます。
中国茶式(工夫茶)のすすめ
より深くラプサンフーチョンを探求したい紅茶オタクには、中国茶の伝統的なスタイル「工夫茶(くふうちゃ)」が断然おすすめです。
蓋碗(がいわん)や茶壺(ちゃふう)といった小さな茶器を使い、短い抽出時間で何煎も繰り返し楽しむことで、香りと味のドラマティックな変化を体験できます。
- 茶器を温める:まず、使用する蓋碗や茶壺、茶杯に熱湯を注ぎ、全体を温めてからお湯を捨てます。
- 洗茶(せんちゃ):温めた茶器に少し多めの茶葉(5g程度)を入れ、沸騰したお湯を注ぎ、5秒ほどで素早く捨てます。これは茶葉の表面の塵を洗い流し、茶葉を開きやすくするための「目覚めの儀式」です。
- 抽出:再びお湯を注ぎ、1煎目は20〜30秒ほどで抽出します。2煎目、3煎目と、少しずつ抽出時間を5〜10秒延ばしながら、香りと味わいの変化をじっくりと楽しみましょう。



一煎ごとに変化する香りのグラデーション、徐々に増していく甘み。まるで一本の映画を観るように、ラプサンフーチョンの物語を味わい尽くすことができます。
水出しで楽しむクリアな燻香
「燻製香は少し苦手かも…」という方にこそ試してほしいのが、水出しです。
熱いお湯で淹れるのとは全く違う、驚くほど穏やかで洗練された表情を見せてくれます。
- ピッチャーなどの容器に茶葉5gと水500mlを入れます。
- 冷蔵庫で6〜8時間ほどゆっくり抽出します。
- 時間が経ったら、茶葉を濾して完成です。



熱で抽出されない成分が溶け出すことで、角の取れたマイルドな燻製香と、茶葉本来の甘みが際立ちます。ゴクゴク飲めるクリアな味わいは、暑い季節の水分補給にもぴったりです。
紅茶オタクに捧ぐ、ラプサンフーチョンの多彩な楽しみ方
ストレートでその真価を味わうのはもちろんですが、ラプサンフーチョンの懐の深さは、多彩なアレンジにこそ発揮されます。常識を覆す、驚きの楽しみ方をご紹介。
- まずはストレートで真価を味わう
- 意外な相性!ミルクティー
- 究極のペアリングを探して
- 大人の嗜み、カクテルアレンジ
まずはストレートで真価を味わう
そして、見た目を裏切るクリアな味わい。



この紅茶が持つ唯一無二の世界観を、五感のすべてで感じ取ってください。これこそが、すべての基本であり、この紅茶を知るための原点。
意外な相性!ミルクティー
「え、あの燻製紅茶にミルクを?」と驚かれるかもしれません。
しかし、これこそが紅茶オタクに試してほしい禁断の組み合わせ。
- 少し濃いめに淹れたラプサンフーチョンに、温めたミルクを同量程度加える。
- お好みで砂糖や蜂蜜を少し加えると、よりコク深いデザートのような味わいに。
この背徳的な美味しさは、一度体験すると病みつきになること間違いなしです。ぜひお試しください。
究極のペアリングを探して
個性が強いからこそ、食べ物とのペアリング(マリアージュ)も格別です。
香りの共通点や意外な組み合わせを探すのも、紅茶オタクの醍醐味と言えるでしょう。
| ペアリングの方向性 | 具体例 | ポイント |
| 鉄板の「燻製」コンビ | スモークサーモン、生ハム、ベーコン、スモークチーズ | 香りの共通点が互いを引き立て合い、至福の時間を約束します。 |
| 甘美なるマリアージュ | ビターチョコレート、羊羹、あんバターサンド、ナッツのタルト | 燻製香がカカオの風味や小豆の甘さを引き締め、複雑な大人の味わいを生み出します。 |
| 禁断の挑戦 | ブルーチーズ、オイルサーディン | チーズの塩気と発酵香、魚の脂がラプサンフーチョンのスモーキーさとぶつかり合い、驚くほどの調和を見せます。 |
大人の嗜み、カクテルアレンジ
そのスモーキーな香りは、ウイスキーやブランデーといった洋酒との相性も抜群です。
濃いめに淹れたラプサンフーチョンをベースに、バーで出てくるような本格的なカクテルを楽しんでみてはいかがでしょうか。
- 濃いめに淹れて冷やしたラプサンフーチョンを30ml用意します。
- グラスに氷をたっぷり入れ、ウイスキー30mlとラプサンフーチョンを注ぎます。
- 冷えた炭酸水を適量注ぎ、炭酸が抜けないよう軽く一度だけ混ぜれば完成。
ウイスキーの樽香とラプサンフーチョンの燻香が重なり合い、非常にリッチでスモーキーな一杯が楽しめます。
秘話:あのアールグレイはラプサンフーチョンから生まれた?



紅茶好きならご存じアールグレイ!≒ラプサンフーチョン?
紅茶のフレーバーティーとして絶大な人気を誇る「アールグレイ」。
その誕生にラプサンフーチョンが関わっているという、紅茶好きの心をくすぐる興味深い説があります。
19世紀のイギリス首相、グレイ伯爵(アール・グレイ)が中国から贈られた紅茶を気に入り、ロンドンの茶商にその味を再現させたのがアールグレイの始まりとされています。
一説によると、この伯爵が愛したオリジナルのお茶が、ラプサンフーチョンだったというのです。
当時のイギリスでは、中国から船で紅茶を輸送する間に、湿気でカビ臭くなってしまうことがありました。
その匂いを隠すために、柑橘類であるベルガモットの香りを付けたのがアールグレイの始まりだという説もあります。
もし、元のお茶がラプサンフーチョンだったとしたら、その独特の燻製香を再現、あるいはマスキングするためにベルガモットが使われたのかもしれません。



真偽のほどは定かではありませんが、紅茶の歴史に思いを馳せる、ロマンあふれる逸話です。
どのブランドを選ぶ?おすすめのラプサンフーチョン
いざラプサンフーチョンを試そうと思っても、どのブランドを選べば良いか迷いますよね。
燻香の強さや味わいはブランドによって様々です。ここでは、比較的手に入りやすく、品質も安定しているおすすめのブランドをいくつかご紹介します。
| ブランド名 | 特徴 | 価格 |
| TWININGS(トワイニング) | イギリスの老舗ブランド。スーパーなどでも手に入りやすく、伝統的なしっかりとした燻香が楽しめます。ミルクティーにもおすすめです。 | 価格は手頃〜中。 |
| Lupicia(ルピシア) | 日本の有名紅茶専門店。燻香が比較的マイルドで、初心者でも飲みやすいように調整されていることが多く、ラプサンフーチョン入門に最適です。 | 価格帯は中〜高。 |
| 中国茶専門店 | より本格的で、産地にこだわった「正山小種」を探すなら、中国茶専門店を訪れるのが一番です。無燻煙タイプや、伝統的な製法にこだわった逸品など、奥深いラプサンフーチョンの世界が待っています。 | 価格帯は中〜高。 |
| MARIAGE FRÈRES(マリアージュ フレール) | フランスの高級紅茶ブランド。より洗練された、複雑で奥深い香りのラプサンフーチョンが見つかります。少し特別な一杯を楽しみたいときに。 | 価格帯は高 |
ブランドや産地によって燻香の強さや種類は驚くほど異なります。ぜひ色々試して、あなただけのお気に入りを見つけてください。
AFTERWORD
ラプサンフーチョンは紅茶の新たな扉を開く鍵
強烈な燻製香と、それを心地よく裏切るクリアな味わい。
ラプサンフーチョンは、まさに「飲むアトラクション」とも言えるエンターテイメント性の高い紅茶です。
その個性的な魅力は、好き嫌いがはっきり分かれるかもしれません。
しかし、もしあなたがその魅力に気づいてしまったなら、紅茶の世界が何倍にも色鮮やかに、そして奥深く広がっていくことを保証します。
ストレートで、ミルクティーで、あるいはカクテルで。その楽しみ方は無限大です。
さあ、勇気を出して、紅茶の新たな扉を開く鍵、「ラプサンフーチョン」を手に取ってみませんか?煙の向こう側で、まだ見ぬ素晴らしい紅茶体験があなたを待っています。
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