紅茶の等級(グレード)とは?
品質の良し悪しではない!
紅茶のパッケージにキラリと光る「OP」や「BOP」といった謎のアルファベット。

これこそが、知る人ぞ知る紅茶の等級(グレード)です。
しかし、ワインの格付けのように「これが一番偉い!」という品質のランクを示すものではありません。
では、紅茶の等級とは何か?ずばり...
製茶された後の「茶葉の形状と大きさ」を示す分類です。
「なんだ、ただの見た目か」と侮るなかれ。
この等級こそ、あなたのティータイムを劇的に変える魔法の呪文。
茶葉の大きさや形が違えば、お湯を注いだ時の味や香りの抽出スピード、そして得意な飲み方も変わってきます。
なぜ等級分けが必要なのか?
もし、大きな茶葉と粉のように細かい茶葉がごちゃ混ぜになっていたらどうでしょう?
大きな葉からじっくり味が出るのを待っている間に、細かい葉からは渋みや雑味が出過ぎてしまい、せっかくの紅茶が台無しになってしまいます。
そこで、製茶工場では完成した茶葉を大きさの異なる網目のふるいにかけ、サイズごとに分類します。
これが「等級区分(グレーディング)」です。
これは、紅茶の品質を安定させ、世界中で取引をスムーズにするための、いわば「茶葉の整理整頓術」と言えるでしょう。
「オレンジペコー」の”オレンジ”はオレンジの香りではない
紅茶好きなら一度は耳にする「オレンジペコー(Orange Pekoe)」。
名前に「オレンジ」と付くため、オレンジの香りがするフレーバードティーだと勘違いされがちですが、残念ながらオレンジの香りとは全く関係ありません。
この「オレンジ」の由来には諸説ありますが、有力なのは以下の2つです。
- オランダ王室由来説:かつて世界の茶貿易を掌握していたオランダ。その名門「オラニエ=ナッサウ家(House of Orange-Nassau)」に敬意を表し、高品質な紅茶にその名を冠したという説。
- 茶葉の色由来説:発酵後の良質な茶葉に含まれる若葉(芯芽)が、美しいオレンジ色(銅色)に見えることから名付けられたという説。
そして「ペコー」は、茶の芯芽(新芽の先端)にある白いうぶ毛を指す中国語「白毫(パイハウまたはペッホ)」が語源とされています。
つまり、「オレンジペコー」とは、由緒ある名前を冠した、美しい芯芽を含む若々しい茶葉のことを指す、なんともロマンあふれる等級名なのです。
日本茶アドバイザーパトラッシュ♂記事の冒頭で品質を表す指標ではないと説明していますが、等級分けして、きれいな若い茶葉を使ってるって表示してあれば単純な品質の格付けされているようなもんだとは個人的に思っちゃいますけどね。(笑)
【形状別】紅茶の等級の基本分類
紅茶の等級は、大きく分けて「ホールリーフ」「ブロークンリーフ」「ファニングスとダスト」の3つの形状に分類されます。それぞれの特徴を知れば、紅茶選びがもっと楽しくなりますよ。
ホールリーフ:茶葉本来の姿を楽しむ
ホールリーフは、その名の通り、揉捻(じゅうねん)という工程で撚(よ)られてはいるものの、裁断されていない大きな茶葉です。
茶葉本来の姿に近いため見た目も美しく、優雅なティータイムを演出してくれます。
- OP (オレンジペコー)
- FOP (フラワリー・オレンジペコー)
OP (オレンジペコー)
ホールリーフの基本となる等級で、長さが7mmから11mmほどの細長く、よく撚られた大型の茶葉です。
水色は比較的明るく、しっかり蒸らすことで豊かな香りを楽しめます。
ストレートティーで、その繊細な香味を味わうのがおすすめです。
FOP (フラワリー・オレンジペコー)
OPの中でも、茶の木の先端にある芯芽(チップ)や非常に若い葉を多く含んだものです。
「フラワリー」という名の通り、花のような甘く華やかな香りが特徴で、上品な味わいから高級茶によく見られる等級です。
ブロークンリーフ:味と香りのバランスが良い
ブロークンリーフは、製造工程でホールリーフを意図的に細かく砕いた(カットした)茶葉です。
茶葉が細かいためお湯に触れる表面積が広くなり、ホールリーフに比べて短時間でしっかりと味と香りを抽出できるのが特徴です。
- BOP (ブロークン・オレンジ・ペコー)
- BP (ブロークン・ペコー)
BOP (ブロークン・オレンジ・ペコー)
OPを2mmから4mm程度にカットしたもので、市場で最も多く流通している紅茶の等級です。
芯芽を多く含む上級品も多く、水色も濃く、しっかりとしたコクと香りが楽しめます。
ストレートでも美味しいですが、濃厚な味わいはミルクティーにもぴったりです。
BP (ブロークン・ペコー)
BOPよりもやや大きめにカットされた茶葉で、芯芽はあまり含まれません。しっかりとした味わいが特徴で、特に後述するCTC製法の紅茶によく見られる等級です。
ファニングスとダスト:ティーバッグの主役
ファニングスとダストは、ブロークンリーフをさらに細かくした、いわば「紅茶の粉」です。
抽出時間が非常に短く、すぐに濃い味と色が出るため、主にティーバッグに使用されます。
- Fannings (ファニングス)
- Dust (ダスト)
Fannings (ファニングス)
BOPをふるいにかけた際に落ちる、1mmから2mmほどの細かい茶葉です。
BOPF(ブロークン・オレンジ・ペコー・ファニングス)もこの一種で、上質なティーバッグによく使われます。
Dust (ダスト)
等級区分の中で最も細かい、粉末状の茶葉です。
「ダスト(埃)」という名前から品質が悪いと思われがちですが、決してそういうわけではありません。
良質なダストは抽出が非常に早く、力強い味わいのため高値で取引されることもあります。
【詳細解説】等級を表すアルファベットの意味
「FTGFOP」のように、やたらと長いアルファベットの羅列。
これは、茶葉の状態をより詳しく表現するためのものです。



まるで秘密の暗号のようですが、意味を知れば誰でも解読できます。
茶葉の状態を表す主なアルファベット
基本となるOPやBOPの前に付くアルファベットは、その紅茶がどれだけ「イケてる」かを示す形容詞のようなもの。
特に以下のアルファベットは、芯芽(チップ)の含有量や品質を示しており、等級の価値を大きく左右します。
| アルファベット | 読み方 | 意味 |
| F (Flowery) | フラワリー | 花のような豊かな香り。芯芽(チップ)を多く含むことを示す。 |
| G (Golden) | ゴールデン | 金色に輝く芯芽(ゴールデンチップ)が含まれていることを示す。 |
| T (Tippy) | ティッピー | 芯芽(Tip)が特に多いことを示す。 |
| S (Special / Super) | スペシャル / スーパー | 茶園が「これは特別だ!」と認めた、最高品質の茶葉に付けられる称号。 |
等級名の解読例:FTGFOPとは?
では、これらの知識を使って、ダージリンなどで見かける「FTGFOP」を解読してみましょう。
FTGFOP = Fine Tippy Golden Flowery Orange Pekoe
これを日本語に訳すと、「すんばらしく(Fine)芯芽がたっぷり(Tippy)で、金色の芯芽も入った(Golden)、花のような香り(Flowery)の、大きな葉っぱ(Orange Pekoe)」となります。



もはや褒め言葉のオンパレードで、生産者の自信がひしひしと伝わってきますね。
さらに、これに「S」が付いた「SFTGFOP」は「スペシャル・ファイン・ティッピー・ゴールデン・フラワリー・オレンジ・ペコー」となり、まさに最上級の賛辞が贈られた紅茶ということになります。
産地による等級表記の違い
基本的な紅茶の等級は世界共通ですが、産地や製法によって独自の表記が使われることがあります。
これが紅茶沼の面白いところでもあります。
ダージリン特有の表記
「紅茶のシャンパン」とも称されるダージリン。
その等級表記は特に複雑で、紅茶好きの探求心をくすぐります。
- SFTGFOP1:等級の最後に付く「1」は、そのロットの中で特に優れた品質であることを示します。
- CH / CL:茶樹の品種を表します。「CH」は伝統的な中国種(China)、「CL」は接ぎ木などで作られた改良品種(Clonal)を意味します。一般的に、中国種はマスカットのような香りが、クローナル種は花のような香りが特徴とされます。
CTC製法による等級
CTC製法とは、「Crush(潰す)、Tear(裂く)、Curl(丸める)」の頭文字を取った製法です。
ローラーで茶葉を押しつぶしながら丸めることで、短時間で濃い味と色を抽出できる粒状の茶葉になります。
アッサムやケニアなどで多く用いられ、ミルクティーやチャイに最適な力強い味わいが特徴です。
CTC製法の等級は、オーソドックス製法とは少し異なり、粒の大きさで分類されます。
- BP (Broken Pekoe):粒が大きめのCTC茶葉。
- BOP (Broken Orange Pekoe):一般的なCTC茶葉の等級。
- PF (Pekoe Fannings):小さめのCTC茶葉。
- PD (Pekoe Dust):さらに細かいCTC茶葉。
等級を活かした美味しい紅茶の選び方と淹れ方
紅茶の等級の意味がわかれば、自分の好みに合った紅茶を選び、最高のポテンシャルを引き出す淹れ方ができるようになります。
ストレートティーにおすすめの等級
繊細な香りや軽やかな味わいを楽しみたいストレートティーには、茶葉本来の個性がじっくりと抽出されるホールリーフがおすすめです。
ミルクティーにおすすめの等級
ミルクのコクに負けない力強い味わいを求めるミルクティーには、短時間で濃く抽出できるブロークンリーフやCTC製法の茶葉が最適です。
AFTERWORDS
等級を知れば紅茶の世界はもっと広がる
紅茶の等級(グレード)は、品質の優劣ではなく、その茶葉が持つ「個性」を示す道しるべです。
葉の大きさや形が違えば、香りや味わい、そして最適な淹れ方も変わってきます。
最初は呪文のように見えたアルファベットも、意味がわかれば愛おしく見えてくるはず。
等級を手がかりに、ホールリーフで優雅な香りに浸ったり、CTCで濃厚なミルクティーを堪能したりと、気分やシーンに合わせて紅茶を選ぶ楽しみは無限に広がります。
さあ、あなたも紅茶の等級を解読して、奥深くユーモラスな紅茶の世界へ、さらに一歩踏み込んでみませんか?


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