茶杓ってなに?茶の湯に欠かせない道具の基本を解説
「茶杓(ちゃしゃく)って、抹茶をすくう細長いスプーンみたいなやつでしょ?」と思ったそこのあなた、半分正解、でも半分はもったいない!
茶杓は、ただ抹茶をすくうだけの道具ではありません。
茶の湯の世界では、茶碗や茶釜と並んで主役級の存在感を放つ、非常に奥深い茶道具なのです。
茶杓は、棗(なつめ)や茶入(ちゃいれ)といった容器から抹茶をすくい、茶碗に移すために使われます。
一見するとただの竹のへらに見えますが、実はその一本一本に作り手の美意識や茶会のテーマ、季節感が凝縮されています。茶人の中には、茶杓を「刀」に例える人もいるほど、その人の精神性を映し出す重要なアイテム。
この記事では、そんな知れば知るほど面白い「茶杓について」、歴史や種類、選び方からマニアックな豆知識まで、ユーモアを交えつつ徹底的に掘り下げます。
これを読めば、あなたも明日から「茶杓、ちょっと語れます」と胸を張れること間違いなしです!
茶杓の歴史:薬匙から茶道具への変遷
今でこそ茶道具の代表格である茶杓ですが、そのルーツは意外なところにあります。
なんと、奈良・平安時代に中国から伝わった「薬匙(やくさじ)」がご先祖様。
当時はお茶が貴重な薬として扱われていたため、毒に触れると変色すると信じられていた象牙や銀の匙が使われていました。

象牙は昔見たことあったけど、今は竹製がほとんどだ。
この薬匙が、現在私たちが知る「茶杓」へと大きな変貌を遂げたのは室町時代のこと。
わび茶の創始者・村田珠光(むらたじゅこう)が、高価な象牙ではなく、素朴な竹で茶杓を作ったのが始まりとされています。
さらに安土桃山時代、茶の湯の革命児・千利休が登場します。
それまで装飾と見なされていなかった竹の「節」をデザインの中心に据えた「中節(なかぶし)」の茶杓を考案。
これにより、茶杓は単なる実用的な道具から、茶人の精神性や美意識を表現する芸術品へと昇華し、今日の茶杓のスタンダードが確立されたのです。



私は、「華やかな茶」の方が今の時代にあってるんじゃないかなぁって感じてます。
茶杓の各部の名称とそれぞれの役割
一本の茶杓には、人体のように各部分に美しい名前が付けられています。
これを知ると、茶杓鑑賞が何倍も楽しくなります。さっそく各部の名称と役割を見ていきましょう。
名称 | 読み方 | 役割・特徴 | 例えるなら… |
櫂先(かいさき) | かいさき | 抹茶をすくう先端部分。茶杓の印象を決定づける最も重要なパーツ。 | 茶杓の「顔」 |
露(つゆ) | つゆ | 櫂先の先端のわずかな部分。作り手の個性がキラリと光る。 | 「チャームポイント」 |
撓め(ため) | ため | 櫂先の美しいカーブ。この曲げ具合が、茶杓全体の優雅さを生み出す。 | しなやかな「背筋」 |
樋(ひ) | ひ | 櫂先の裏側にある溝。抹茶をすくいやすくする機能性と、景色としての美しさを併せ持つ。 | 機能美あふれる「えくぼ」 |
節(ふし) | ふし | 茶杓の真ん中あたりにある竹の節。位置や形で茶杓の「格」が決まる。 | 茶杓の「風格」そのもの |
おっとり | おっとり | 節から持ち手側の端までの真っ直ぐな部分。全体のバランスを支える。 | まっすぐ伸びた「姿勢」 |
切止(きりどめ) | きりどめ | 持ち手側の端。斜めにカットされており、作者の刃の冴えが見える見所。 | 作家の「サイン」 |



これらの名称を覚えておけば、「この茶杓は撓めが優雅だね」とか「切止の角度が鋭い!」なんて、通な会話が楽しめるようになります。
私は、基本ぼっちなので「ゴリゴリな漆でコーティングされたカッコいいやつ」使ったり、桜の木などの変わった素材の茶杓みて一人で「いいなぁ、これ…」って呟いてます。
茶杓の種類を知る|素材・形・作者で変わる奥深い世界
茶杓の世界は、素材、形、そして作者という3つの要素が絡み合い、無限のバリエーションを生み出しています。ここでは、その奥深い世界の入り口をご案内します。
素材による違い:竹、木、象牙など
茶杓は使われる素材によって、その風格や手触り、使い心地が大きく異なります。
- 白竹(しらたけ): 青竹を乾燥させた、清潔感のある淡い黄色の竹。お稽古始めに最適な、いわば茶杓界の「優等生」です。
- 煤竹(すすだけ): 古い民家の囲炉裏の煙で、100年以上いぶされてできた飴色の竹。渋い色合いと艶が魅力の、風格漂う「ベテラン俳優」のような存在です。
- 胡麻竹(ごまだけ): 表面に細かい斑点模様がある竹。その個性的なルックスは、一本一本景色が異なり、茶杓界の「一点物アーティスト」と言えるでしょう。
最もポピュラーで、茶杓の王道といえば竹製です。軽くてしなやか、そして竹の種類によって全く異なる表情を見せてくれます。



天然物の煤竹は材料がもうほとんど残っていないので、見つけたら手に入れておきたいです。
桑、梅、桜、松といった木で作られた茶杓は、竹とはまた違う温かみと、しっとりとした手触りが魅力です。
特に徳川家康が植えたと伝えられる「官休庵(武者小路千家)の梅」や、豊臣秀吉ゆかりの「太閤桐」など、由緒ある木から作られた茶杓は珍重されます。



官休庵や太閤桐はまぁレア中のレアです。
茶杓のルーツでもある象牙製は、その希少性と滑らかな質感、独特の光沢から、非常に格式の高い茶道具として扱われます。
現在ではワシントン条約により国際取引が原則禁止されており、大変貴重な存在です。
形(姿)で見る茶杓:「真・行・草」の格付け
書道や華道の世界と同じように、茶杓にも「真(しん)・行(ぎょう)・草(そう)」という3つの格付けが存在します。
これは主に竹の「節」の位置によって決まり、茶会の格式や趣向に応じて使い分けられます。
- 真:節のない「無節(むふし)」の茶杓が「真」とされ、最も格式が高いと位置づけられます。
象牙の薬匙を模した形で、台子(だいす)という正式な棚を使った点前や、献茶式など特別な儀式で用いられます。 - 行:持ち手側の端(切止)に近い部分に節がある「止節(とめぶし)」が「行」にあたります。真と草の中間の格で、幅広い茶会で活躍するオールラウンダー的な存在です。
- 草:千利休によって完成されたとされる、中央に節がある「中節(なかぶし)」が「草」です。
最も一般的で自由な作風のものが多く、わび茶の精神を色濃く反映していると言えます。
お稽古からカジュアルな茶会まで、最も目にする機会が多い茶杓です。
「銘」に込められた想いと季節感
多くの茶杓には、その一本を象徴する「銘(めい)」という名前が付けられています。
これは作者や所持者が、禅語や和歌、季節の情景などからインスピレーションを得て名付けたもので、茶杓を納める筒に墨で書き付けられます。
- 春の銘: 「花筏(はないかだ)」「春霞(はるがすみ)」「のどか」
- 夏の銘: 「清流(せいりゅう)」「蝉時雨(せみしぐれ)」「涼風(りょうふう)」
- 秋の銘: 「月影(つきかげ)」「虫の音(むしのね)」「紅葉狩(もみじがり)」
- 冬の銘: 「雪月花(せつげっか)」「寒椿(かんつばき)」「埋火(うずみび)」
茶会では、亭主が選んだ茶杓の銘からその日のテーマを読み解くのも、大きな楽しみの一つです。



上記以外にもいろんな銘があります。
むしろ自分独自の銘を茶杓に名づけて楽しむのもありかもしれませんね。
有名な作家とその作風
茶杓は、歴史に名を刻む多くの茶人たちが自ら削ってきました。
彼らの作品には、それぞれの個性や美意識が色濃く反映されています。
- 千利休(せんのりきゅう): わび茶を大成させた茶聖。彼が作る茶杓は、無駄を極限まで削ぎ落とした、静かで力強い美しさを持ちます。
- 古田織部(ふるたおりべ): 利休の高弟。大胆で歪んだ形を好んだ「織部好み」で知られ、彼の茶杓もまた、力強く個性的な姿が特徴です。
- 小堀遠州(こぼりえんしゅう): 「きれいさび」という独自の美学を確立した大名茶人。彼の作る茶杓は、洗練された優美な姿が魅力です。
これらの作家が作った茶杓は、単なる道具ではなく、彼らの哲学を今に伝える芸術品として、美術館などで目にすることもできます。



昔の有名人みたいに、自分で木を削って銘を入れれば世界に一つだけの掛け替えのない茶杓を作れちゃうかもしれませんね。
初めての茶杓選び|自分に合った一本を見つけるポイント
「茶杓の奥深さはわかったけど、最初の一本はどう選べばいいの?」という茶道ビギナーの方のために、自分に合った茶杓を見つけるポイントを伝授します。
お稽古用と茶会用の違い
まずは用途を明確にすることが大切です。
- お稽古用: 基本的な扱い方を学ぶためには、最もスタンダードな白竹の「中節」の茶杓が最適です。
まずは扱いやすい一本で、抹茶をすくう感覚や所作を身につけましょう。 - 茶会用: 少し慣れてきたら、茶会のテーマや季節に合わせて、銘のついたものや、煤竹などの景色のある茶杓を選んでみましょう。
自分なりの一本を持つことで、お茶がさらに楽しくなります。
シーンに合わせた選び方:野点用や水屋用も
茶杓には、特定のシーンで活躍するユニークな仲間たちもいます。
- 野点(のだて)用:屋外でお茶を楽しむ野点には、持ち運びに便利な折りたたみ式や、二つに分解できる二つ節の茶杓があります。
コンパクトに収納できるので、旅先やアウトドアでお茶を楽しみたい方にぴったりです。 - 水屋(みずや)用:水屋(茶室の準備室)で、一度にたくさんの抹茶を点てる際に使われるのが水屋茶杓です。
通常の茶杓よりも櫂先(すくう部分)が大きく作られており、効率よく作業を進めるための実用的な一本です。
どこで買う?予算と購入場所の目安
茶杓は、茶道具専門店や百貨店の茶道具売り場、骨董市、オンラインショップなどで購入できます。
- 予算の目安:
お稽古用の白竹茶杓: 1,000円~3,000円程度
銘入りの茶杓: 5,000円~
作家物や骨董の茶杓: 数万円~数百万円以上
- 購入場所:
茶道具専門店: 専門知識豊富な店員さんに相談しながら選べるのが最大のメリット。初心者にも親切に教えてくれます。
オンラインショップ: 種類が豊富で比較検討しやすいですが、実物を見られないのがデメリット。
骨董市: 思わぬ掘り出し物に出会える可能性がありますが、真贋を見極める目が必要です。
まずは先生やお店の人に相談しながら、直感的に「好きだな」と感じる一本との出会いを楽しんでみてください。
茶杓の正しい使い方と基本的な作法
お気に入りの茶杓を手に入れたら、次は正しい使い方をマスターしましょう。
美しい所作は、お茶の時間をより豊かなものにしてくれます。
基本の持ち方と抹茶のすくい方
茶杓の扱いは、茶道の基本です。
丁寧な所作を心がけましょう。
親指と人差し指で茶杓の中央あたりを上から軽く挟み、中指をそっと添えるように持ちます。
卵を掴むように、力を入れすぎないのがコツです。
親指と人差し指で茶杓の中央あたりを上から軽く挟み、中指をそっと添えるように持ちます。
卵を掴むように、力を入れすぎないのがコツです。
茶碗の中央に、静かに抹茶を入れます。茶碗の縁で軽く「トントン」と叩いて抹茶を落としますが、大きな音を立てないように優雅に行うのが美しい作法です。
拝見(はいけん)の作法:亭主への敬意を表す
茶会の終盤には、客が亭主の道具を鑑賞する「拝見」という時間があります。
茶杓は亭主の想いが詰まった大切な道具。敬意を払い、丁寧に扱いましょう。
帛紗(ふくさ)を広げ、その上で茶杓を受け取ります。
全体の姿、櫂先の形、節の様子、切止の鋭さなどをじっくりと鑑賞します。
この時、抹茶をすくう櫂先には直接指が触れないように注意するのが最大のポイントです。
拝見が終わったら、向きを元に戻して亭主にお返しします。



亭主がなぜこの茶杓を選んだのか、銘にはどんな意味が込められているのかに思いを馳せながら鑑賞することで、亭主との心豊かな交流が生まれます。
茶杓を永く愛用するために|お手入れと保管方法
繊細な茶道具である茶杓は、適切なお手入れと保管をすることで、永く美しい状態を保ち、次の世代へと受け継ぐことができます。
使用後のお手入れ:水洗いは厳禁
ここが最も重要なポイントです!
竹や木でできた茶杓は、絶対に水で洗ってはいけません。
水分はシミやカビ、変形の原因となり、茶杓の寿命を縮めてしまいます。
使用後は、乾いた柔らかい布や懐紙(かいし)、ティッシュペーパーなどで、付着した抹茶を優しく拭き取るだけで十分です。
最適な保管場所と注意点
お手入れが終わった茶杓は、購入時についてくる「筒(つつ)」や、桐箱に納めて保管するのが基本です。
- 保管場所: 直射日光が当たらず、エアコンの風が直接当たらない、温度や湿度の変化が少ない場所を選びましょう。桐箱は、湿気を調整してくれるため最適な保管箱です。
- 注意点: 筒や箱に納めることで、ホコリや衝撃から茶杓を守ることができます。長期間使わない場合でも、年に数回は虫干しを兼ねて取り出し、状態を確認してあげると良いでしょう。
AFTERWORD
一本の茶杓から広がる茶の湯の世界
たった一本の小さな匙、茶杓。
しかしその背景には、薬だった時代から千利休によって芸術へと高められた壮大な歴史と、作り手たちの熱い想い、そして日本の美しい四季が凝縮されています。
素材や形、そして「銘」というポエムの世界を知れば、茶杓は単なる道具ではなく、茶会の物語を雄弁に語りかけてくる主役の一人に見えてくるはずです。
お稽古で使う一本の茶杓にも、あなたを茶の湯の奥深い世界へと誘う、不思議な魅力が宿っています。
さあ、あなたも自分だけの一本を見つけて、茶杓と共に茶の湯の旅に出かけてみませんか?その小さな一本が、きっとあなたの日常に、豊かで静かな時間をもたらしてくれることでしょう。
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