摘採とは?
お茶の味を決める最初の重要工程
「このお茶、なんだかいつもより格別に美味しい…」そう感じたことはありませんか?
その秘密は、壮大なるお茶の製造工程における、最初の、そして最も運命的なステップ「摘採(てきさい)」に隠されているかもしれません。
そう、摘採は単なる収穫作業にあらず。いつ、どこを、どう摘むか。
その一瞬の判断が、お茶の個性と価値を決定づける、いわば「お茶の運命の分かれ道」です。
この記事では、お茶を愛してやまないあなたのために、知られざる摘採の奥深い世界を、ユーモアたっぷりにお届けします。
摘採(てきさい)の基礎知識
まず、この少し難しい漢字「摘採」。読み方は「てきさい」です。
日本茶アドバイザーパトラッシュ♂シンプルに言えば、お茶摘みです。
お茶の木(チャノキ)から新芽を摘み取る作業のこと。
このシンプルな作業が、お茶の品質を左右する極めて重要な工程なのです。
摘採が大事な理由は、茶葉は摘み取られた瞬間から「酸化発酵」という化学変化、つまり自己分解を始めるので、美味しいお茶を作るためには、この変化をいかにコントロールするかが大事だから。
それでも新茶の時期になると、ゆっくり茶摘みをしているとその横で茶葉が伸びてきてしまうので、摘採は、時間との壮絶な戦いのゴングを鳴らす合図でもあるのです。
「いつ」「どこを」摘む?摘採の基本ルール
美味しいお茶を作るためには、やみくもに摘んでいるわけではありません。
そこには、古くから伝わる黄金のルールが存在します。それが「一芯二葉(いっしんによう)」です。
一芯(いっしん): まだ葉が開いていない、新芽の中心にある最も若い芽。
二葉(によう): その「芯」を支えるように開いた、若く柔らかい葉2枚。
この「一芯二葉」は、旨味や甘みの成分であるアミノ酸(テアニンなど)が最も凝縮された、いわば”お茶のエリート部分”。
高級茶になるほど、このルールが厳格に守られます。
時には、さらに下の葉を含めた「一芯三葉」で摘むこともありますが、基本はこの柔らかい部分を狙うことで、雑味のないクリアな味わいが生まれるのです。
摘採のタイミングが味と香りの運命を分ける
「いつ摘むか」は、お茶の品質を左右する最大のテーマ。
早すぎれば収穫量が減ってしまい、遅すぎれば葉が硬くなり大味になってしまう…。
この品質と収穫量という、悩ましいシーソーゲームの最適なバランスを見極めるのが、生産者の腕の見せ所なのです。
新茶の季節と摘採時期
春の訪れとともに始まる、心躍る新茶の季節。
日本では、温暖な鹿児島県の種子島で3月下旬頃から摘採が始まり、桜前線のように日本列島を北上していきます。
よく耳にする「八十八夜」は、立春から数えて88日目のこと。通常は 5月2日ごろ(年によっては5月1日や5月3日になることもあります)
この時期に摘まれたお茶は、古来より不老長寿の縁起物として珍重されてきました。
お茶の摘採は年に数回行われ、それぞれに個性があります。
| 呼び名 | 摘採時期の目安 | 特徴 |
| 一番茶(新茶) | 4月下旬~5月 | 冬の間に蓄えた栄養が満点。旨味・香りともに最高品質。 |
| 二番茶 | 6月中旬~7月上旬 | 一番茶から約45~50日後。カテキンが増え、さっぱりとした味わい。 |
| 三番茶 | 7月下旬~8月上旬 | 強い日差しを浴びて育つ。渋みが強く、健康成分が豊富。 |
| 秋冬番茶 | 9月下旬~10月 | その年の締めくくり。地域によっては生産されないことも。 |
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地域別摘採期のまとめ
| 県名 | 1番茶 | 2番茶 | 3番茶 | 4番茶 | 秋冬番茶 |
|---|---|---|---|---|---|
| 種子島 | 3月中旬 ~4月中旬 | 5月下旬 ~6月中旬 | 7月上旬 ~7月下旬 | 7月下旬 ~8月中旬 | 10月上旬 ~10月下旬 |
| 鹿児島 | 4月上旬 ~5月中旬 | 6月上旬 ~6月下旬 | 7月上旬 ~8月中旬 | 8月上旬 ~8月下旬 | 10月上旬 ~10月下旬 |
| 宮崎 | 4月中旬 ~5月中旬 | 6月中旬 ~7月中旬 | 7月上旬 ~8月上旬 | – | 10月上旬 ~10月下旬 |
| 京都 | 4月下旬 ~5月下旬 | 6月下旬 ~7月中旬 | – | – | 9月下旬 ~10月下旬 |
| 三重 | 4月下旬 ~5月下旬 | 6月下旬 ~7月中旬 | – | – | 9月下旬 ~10月下旬 |
| 静岡 | 4月中旬 ~5月中旬 | 6月中旬 ~7月中旬 | 7月下旬 ~8月上旬 | – | 9月下旬 ~10月中旬 |
最高級の証「大走り」とは?
新茶の中でも、シーズン序盤に収穫されるごく僅かな初物を「大走り(おおばしり)」と呼びます。
これは、その年の最初に芽吹いた、生命力あふれる新芽だけを使った幻のお茶。



フレッシュで若々しい香りは格別で、まさに”春の香りそのもの”を飲むような贅沢な体験ができます。
摘採タイミングの見極め方:職人の技と最新技術
最高の摘採タイミングは、一体どうやって見極めるのでしょうか。
伝統的には「出開き度(であきど)」という指標が使われます。
これは、茶園全体で新芽の成長が止まった葉(止め葉)が開いた割合を示すもの。
この出開き度が50%~80%に達した時が、品質と収量のバランスが最も良いとされています。
この判断は、長年の経験を積んだ職人の「目」と「手触り」が頼りでした。
近年では、ドローンで茶畑を空撮し、AIが葉の色や成長具合を解析して最適な収穫日を提案するなど、最新技術との融合も進んでいます。
まさに、伝統の技とハイテクの融合です。
手摘みと機械摘み、その決定的な違い
お茶の製造工程における摘採方法には、大きく分けて「手摘み」と「機械摘み」の2つがあります。
この違いは、単に効率の問題だけでなく、お茶の品質と価格を決定づける大きな要因です。
品質を極める「手摘み」の世界
品評会に出品されるような最高級のお茶は、今も昔も変わらず、熟練の摘み手によって一芽一芽丁寧に手で摘まれています。
- 茶葉を傷つけず、雑味の原因となる成分の流出を防げる。
- 「一芯二葉」のような柔らかいエリート新芽だけを選別できる。
- 茎や古い硬い葉の混入が極めて少ない。
- 膨大な手間と時間がかかり、人件費も高い。
- 生産量が極端に限られるため、製品は非常に高価になる。
手摘み茶は、まさに人の手だけが生み出せる、品質の極致。茶葉の形が美しく揃っているのも特徴です。
生産効率を支える「機械摘み」の技術
現在、日本で流通しているお茶のほとんどは、機械を使って効率的に摘採されています。
「機械摘み=品質が劣る」というのは、もはや過去の話。



昔はよく味が落ちるって言われていたんですよ!
まぁ手摘みの名人には敵わないんですが、今ではこちらが主流です。
技術の進歩は目覚ましく、手摘みに迫る品質を実現する機械も登場しています。
| 機械の種類 | 特徴 |
| 可搬型摘採機 | 2人で両側から持って操作するタイプ。小回りが利く。 |
| 乗用型摘採機 | 人が乗って運転する大型機械。広大な平地の茶園で圧倒的な効率を発揮。 |
| レール式摘採機 | 茶畝の間に敷設したレール上を走行。摘採高さを精密に設定でき、高品質な摘採が可能。 |
これらの機械のおかげで、私たちは毎日、手頃な価格で美味しいお茶を楽しめるのです。
手摘みと機械摘みで見分けるお茶の品質
急須にお茶を入れる前に、茶葉を少し観察してみてください。手摘みか機械摘みか、ヒントが隠されているかもしれません。
- 手摘み茶:茶葉の形が針のように美しく、長さが揃っていることが多い。粉や茎が少ない。
- 機械摘み茶:葉が機械の刃でカットされているため、断面が見えたり、大きさが不揃いだったりすることがある。
もちろん、機械の性能向上により一概には言えませんが、茶葉の「見た目の美しさ」は、品質を見極める一つの面白い指標になります。
摘採がお茶の種類をどう変えるか
摘採の方法やルールは、煎茶、玉露、紅茶といったお茶の種類そのものを生み出す上でも決定的な役割を果たします。
煎茶:一芯二葉から三葉が基本
日本の食卓に最も馴染み深い煎茶。
太陽の光をたっぷり浴びて育つため、爽やかな香りと心地よい渋みが特徴です。
摘採は、旨味と渋みのバランスが良い「一芯二葉」から「一芯三葉」が基本。
多くは機械で効率よく摘採されます。
玉露:被覆栽培が生む独特の旨味と摘採
高級日本茶の代名詞、玉露。
その最大の特徴は、摘採前の約20日間、茶園に覆いをかけて日光を遮る「被覆栽培(ひふくさいばい)」にあります。



いわば、お茶界の箱入り娘。
光合成を制限することで、渋み成分(カテキン)の生成を抑え、旨味成分(テアニン)をたっぷりと葉に蓄えさせます。
この凝縮された旨味を最大限に活かすため、摘採は柔らかい新芽だけを丁寧に手摘みするのが伝統です。
紅茶・ウーロン茶:発酵を前提とした摘採の考え方
緑茶が酸化発酵を止める「不発酵茶」であるのに対し、紅茶は「完全発酵茶」、ウーロン茶は「半発酵茶」です。
これらのお茶は、茶葉が持つ酸化酵素の働きを積極的に利用するため、ある程度成長して酵素活性が強い「一芯三葉」などを摘むのが一般的。
力強い香りと味わいは、この発酵を前提とした摘採から生まれるってことですね。
摘採後の知られざる工程
摘み取られた茶葉は、時間との勝負をしながら、次なる製造工程へと急ぎます。
- 摘採(茶摘み):← ココです!お茶の木(チャノキ)から新芽を摘み取る作業のこと。
- 蒸熱(じょうねつ): 摘採した生葉を蒸気で蒸し、酸化酵素の働きを止める。お茶の品質を左右する最初の重要な工程。
- 冷却(れいきゃく):蒸した茶葉をすばやく冷まし、余分な水分を取り除く。
- 葉打ち(はうち):蒸した後の熱く湿った茶葉を攪拌(かくはん)する工程
- 粗揉(そじゅう): 熱風を送りながら、茶葉を揉んで乾燥させる最初の揉み工程。
- 揉捻(じゅうねん): 粗揉を経た茶葉に力を加え、水分をさらに均一化させる。
- 中揉(ちゅうじゅう): 茶葉を再び熱風で乾燥させながら、よりをかけて細長く整える。
- 精揉(せいじゅう): 茶葉の形を針のようにまっすぐ美しく整え、乾燥を仕上げる。
- 乾燥(かんそう):茶葉の水分量が5%程度になるまでしっかりと乾燥させ、貯蔵性を高める。
- 荒茶(あらちゃ):お茶の一次加工品の完成!!
鮮度が命!摘採から蒸熱(じょうねつ)まで
摘みたての生葉は、自らの呼吸熱でどんどん劣化してしまいます。そのため、摘採後は大急ぎで工場に運ばれ、「蒸熱(じょうねつ)」という工程にかけられます。
これは、高温の蒸気で一気に蒸すことで、酸化酵素の働きを止める重要な作業。この蒸し時間の長さが、お茶の個性を大きく変えます。
荒茶から仕上げ茶へ:選別と火入れ
蒸熱後、揉みと乾燥の工程を経て、まず「荒茶(あらちゃ)」が完成します。



これは、まだ茎や粉が混じり、水分量も不均一な、いわば”お茶の原石”です。
この荒茶から、余分な茎や粉を取り除き(選別)、最後に「火入れ」という加熱処理で香ばしい香りを引き出し、複数の荒茶をブレンド(合組)することで、ようやく私たちが手にする製品「仕上げ茶」が完成するのです。
AFTERWORD
一杯のお茶は、こだわりの摘採から始まっている
何気なく飲んでいるその一杯のお茶。その背後には、茶葉の運命を決定づける「摘採」という、繊細でドラマチックな製造工程がありました。
次に急須でお茶を淹れる際には、ぜひ茶葉の形をじっくりと眺めてみてください。
その一枚一枚に込められた生産者の想いや、摘み手の丁寧な仕事ぶりを感じられるはず。
あなたのティータイムが、より一層深く、豊かなものになることでしょう。
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