粗揉(そじゅう)とは?
一杯のお茶、それは湯気の中に広がる魅惑の緑の宇宙。
その宇宙を創造する過程には、数々のドラマチックな工程が隠されています。
中でも、お茶の個性と品質を決定づける重要なステップが「揉み」!
粗揉とは:お茶の味と香りを左右する最初の「揉み」
日本茶アドバイザーパトラッシュ♂お茶をモミモミ🩷
今回は、その「揉み」のファーストコンタクト)の奥深い世界へ皆様をご案内します。



お茶好きを自負するあなたも、これを読めば「なるほど、だからあのお茶はあんなに美味しいのか!」と膝を打つこと間違いなし。
さあ、お茶オタクへの扉を開きましょう!
そもそも、なぜお茶を「揉む」のか?
摘みたての茶葉(生葉)は、いわば瑞々しい野菜そのもの。
これをそのままお湯に入れても、残念ながら美味しいお茶にはなりません。
そこで登場するのが「揉む」という工程です。



つまり、お茶を揉むという行為は、茶葉が持つポテンシャルを最大限に引き出し、私たちが「美味しい!」と感じる一杯を完成させるための、愛あるマッサージなのです。 ムフフ💗
粗揉
お茶づくりの「揉み」の第一歩
つまり粗揉(そじゅう)とは、蒸して酸化酵素の働きを止めた茶葉を、熱風を送りながら優しく揉んでいく、お茶の製造における最初の揉み工程です。
この段階では、茶葉にまだ多くの水分(約75%)が含まれており、非常に柔らかくデリケート。
そんな茶葉を優しく、しかし確実に揉みほぐし、乾燥させていくのが粗揉の役割です。
まさに、お茶づくりの「揉み」のキャリアはここからスタートするのです。



お茶と女性は大事に揉めよってことですね!
製造工程全体での粗揉の位置づけ
お茶(特に煎茶)の製造は、まるで駅伝のように各工程がタスキを繋いでいきます。
粗揉がどの区間を走るランナーなのか、一般的な製造工程を見てみましょう。
- 摘採(茶摘み):お茶の木(チャノキ)から新芽を摘み取る作業のこと。
- 蒸熱(じょうねつ): 摘採した生葉を蒸気で蒸し、酸化酵素の働きを止める。お茶の品質を左右する最初の重要な工程。
- 冷却(れいきゃく):蒸した茶葉をすばやく冷まし、余分な水分を取り除く。
- 葉打ち(はうち):蒸した後の熱く湿った茶葉を攪拌(かくはん)する工程
- 粗揉(そじゅう): ← ココです! 熱風を送りながら、茶葉を揉んで乾燥させる最初の揉み工程。
- 揉捻(じゅうねん): 粗揉を経た茶葉に力を加え、水分をさらに均一化させる。
- 中揉(ちゅうじゅう): 茶葉を再び熱風で乾燥させながら、よりをかけて細長く整える。
- 精揉(せいじゅう): 茶葉の形を針のようにまっすぐ美しく整え、乾燥を仕上げる。
- 乾燥(かんそう):茶葉の水分量が5%程度になるまでしっかりと乾燥させ、貯蔵性を高める。
- 荒茶(あらちゃ):お茶の一次加工品の完成!!
このように、粗揉は蒸熱という初期工程と、本格的な揉みの工程を繋ぐ、非常に重要な役割を担っているのです。
粗揉の目的と茶葉に与える影響
では、なぜ粗揉はお茶の製造においてこれほどまでに重要なのでしょうか?その目的と、茶葉に与える具体的な影響を深掘りしていきましょう。
- 水分の均一化と乾燥
- 茶温の管理と品質保持
- お茶の味・香り・水色に与える影響
目的①:水分の均一化と乾燥
粗揉の最大のミッションは、茶葉の水分を均一にしながら乾燥を進めることです。
蒸し上がったばかりの茶葉は、表面は湿っていても芯の部分には水分が多く残っています。
このムラをなくすため、粗揉機は熱風を送り込みながら茶葉を大きく攪拌し、揉み込みます。
これにより、葉の表面の水分を飛ばしつつ、内部の水分を表面に移動させる「向流乾燥」の原理で、効率よく乾燥を進めていきます。
この工程でお茶の水分量は約40%程度まで減少します。
目的②:茶温の管理と品質保持
お茶づくりは温度管理が命。
粗揉では、茶葉の温度を34〜36℃程度に保つのが理想とされています。
温度が低すぎると乾燥が進まず、高すぎると茶葉が変質し、香りや色が損なわれてしまいます。
粗揉機は、熱風を送りながら茶葉を舞い上がらせることで、葉の温度を一定に保ち、デリケートな茶葉の品質を守っています。
目的③:粗揉がお茶の味・香り・水色に与える影響
粗揉の出来栄えは、最終的なお茶の品質にダイレクトに影響します。
この工程の良し悪しが、お茶の個性を決定づけると言っても過言ではありません。
| 影響する要素 | 粗揉が成功した場合 | 粗揉が不十分・過剰な場合 |
| 味 | 葉の組織が適度に破壊され、うま味や渋みがバランス良く抽出される。 | 味が薄くなったり、逆に雑味や苦みが強くなったりする。 |
| 香り | 茶葉本来の爽やかな香りが保たれ、引き立つ。 | 香りが飛んでしまったり、焦げたような不快な匂い(火香)がついたりする。 |
| 水色(すいしょく) | 美しい黄金色〜鮮やかな緑色になる。 | 色が暗く濁ったり、赤みがかったりする。 |



つまり、粗揉は単なる乾燥工程ではなく、お茶の味、香り、見た目の三拍子を整えるための、極めて重要な下準備ですね。
【お茶オタク向け】粗揉のメカニズムと技術
ここからは、お茶オタクの皆さんお待ちかねの、よりディープな世界へ。
粗揉のメカニズムと、そこに隠された職人技に迫ります。
粗揉機の構造:「揉み手」と「葉ざらい」の役割
粗揉機は、一見すると大きなドラム洗濯機のようですが、その内部には精巧な仕組みが隠されています。
揉み手(もみて): 粗揉機の中心にある腕のような部分。これが回転しながら、茶葉を優しく、しかし力強く揉み込み、攪拌します。
葉ざらい: 揉み手の下部にある熊手のような突起。これが茶葉をかき上げ、舞い上がらせることで、熱風が均等に当たるようにします。
この「揉み手」と「葉ざらい」の絶妙な連携プレーによって、茶葉は揉まれ、舞い上げられ、熱風に晒されるという一連の動きを繰り返しながら、効率的に乾燥していくのです。
粗揉の3つの段階:葉ぶるいから揉み込みへ
約40〜50分間行われる粗揉工程は、大きく3つの段階に分けられます。
- 第1段階:葉ぶるい
- 第2段階:揉み込み開始
- 第3段階:仕上げ乾燥
第1段階:葉ぶるい
投入されたばかりの水分豊富な茶葉は、塊になりがちです。この段階では、揉むというよりは、茶葉を大きく揺さぶりながら熱風を当て、表面の水分を飛ばして葉をほぐすことに重点が置かれます。



まさに、茶葉たちの準備運動といったところです。
第2段階:揉み込み開始
茶葉がある程度乾いてくると、揉み手による本格的な「揉み」が始まります。
ここで初めて茶葉に圧力がかかり、葉の組織が破壊され始めます。
ただし、まだ力は弱め。茶葉の様子を見ながら、徐々に圧力を加えていきます。
第3段階:仕上げ乾燥
最後の仕上げ段階。
茶葉の水分もかなり減ってきているため、強い揉み込みを行いながら乾燥を進めます。
この段階で、茶葉の水分量は目標の約40%まで落とされます。
職人技が光る!粗揉のポイントと見極め
粗揉は機械が行う工程ですが、その日の気温や湿度、茶葉の状態(品種、硬さ、水分量など)によって、熱風の温度や風量、揉み圧を微調整する必要があります。
- 茶葉の手触り: 職人は、実際に茶葉を手に取り、その感触で乾燥具合や弾力を確かめます。
- 香り: 粗揉機から立ち上る香りの変化を嗅ぎ分け、乾燥の進み具合や適切な温度を判断します。
- 機械の音: 熟練の職人になると、粗揉機が立てる音の変化で、中の茶葉の状態を把握できると言います。
これらの五感をフル活用した判断が、最高品質のお茶を生み出すのです。
粗揉は、まさに機械と人間の共同作業が生み出す芸術と言えるでしょう。



実際やってみると、その日の季節、気温、湿度、そもそものお茶の質で全然違うので、本当に難しい!同じお茶ならまだしも、毎年お茶も取れ方ちがうんだ。
粗揉と他の「揉み」工程との違い
お茶づくりには「粗揉」以外にも様々な「揉み」が存在します。ここでそれぞれの違いをマスターすれば、あなたも立派な「揉み」博士です!
粗揉と葉打ちの違い
葉打ちは、粗揉の前段階で行われることがある工程です。
蒸した葉を軽く叩くようにして、表面の水分を飛ばし、葉をほぐすのが目的です。
粗揉が「揉みながら乾燥」であるのに対し、葉打ちは本格的な揉みの前のウォーミングアップという位置づけになります。
揉捻(じゅうねん)との違い:加熱せずに加圧する
揉捻は、粗揉の次に行われる工程です。
粗揉との最大の違いは、熱風を送らずに強い圧力をかける点にあります。
これにより、粗揉で表面が乾いた茶葉の内部にある水分を、葉全体に均一に行き渡らせる(再分配する)のが目的です。
粗揉が「乾燥」に重点を置くのに対し、揉捻は「水分の均一化」に特化した工程と言えます。
中揉(ちゅうじゅう)との違い:よりをかけ細長くする
中揉は、揉捻を経た茶葉を再び熱風で乾燥させながら、よりをかけて細長い形に整えていく工程です。
粗揉が茶葉を大きくほぐしながら乾燥させるのに対し、中揉では茶葉を塊の状態にして、その塊自体を転がすように揉むことで、茶葉一本一本が撚れて美しい形状になっていきます。
精揉(せいじゅう)との違い:形を整え仕上げる
精揉は、揉み工程の最終ランナー。中揉で細長くなった茶葉を、さらに針のようにまっすぐ美しく整え、乾燥を仕上げる工程です。往復運動する盤の上で、職人が手作業のような絶妙な力加減で茶葉に圧力をかけ、形を整えながら光沢を出していきます。粗揉が茶葉の乾燥と下準備を目的とするのに対し、精揉は見た目の美しさと最終的な乾燥を目的とする、まさにフィニッシュワークです。
▼「揉み」工程の役割まとめ
| 工程名 | 主な目的 | 加熱の有無 | 茶葉の形状変化 |
| 粗揉 | 水分の均一化と乾燥(下準備) | あり(熱風) | ほぐれ、柔らかくなる |
| 揉捻 | 内部水分の均一化(加圧) | なし | 組織が破壊され、水分が滲み出る |
| 中揉 | 乾燥と形状形成(撚る) | あり(熱風) | よりがかかり、細長くなる |
| 精揉 | 形状の仕上げと乾燥(整える) | あり(熱風) | 針のようにまっすぐになる |
AFTERWORD
粗揉を知れば、お茶はもっと美味しくなる
何気なく飲んでいる一杯のお茶。
その背景には、今回ご紹介した「粗揉」をはじめとする、数々の緻密で情熱的な工程が隠されています。
熱風の中で舞い、優しく揉みほぐされる茶葉の姿を想像してみてください。
粗揉が、茶葉のポテンシャルを最大限に引き出すための、愛情のこもったファーストタッチであることがお分かりいただけたのではないでしょうか。
次に急須でお茶を淹れるとき、ぜひ思い出してみてください。
「このお茶も、きっと丁寧に粗揉されたんだろうな」と。そう思えば、いつものお茶が、より一層味わい深く、香り高く感じられるはずです。
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