日本茶アドバイザーパトラッシュ♂お茶好きの皆さん、こんにちは!普段何気なく飲んでいるその一杯の日本茶、実はとんでもなく緻密で、時にお茶目な「製造工程」を経て作られていることをご存知でしたか?
今回は、数ある日本茶の製造工程の中でも、特に地味ながら超重要な「冷却」にスポットライトを当て、その知られざる世界をお届けします。
これを読めば、あなたのお茶ライフが一段と味わい深くなること間違いなし!
日本茶製造(荒茶工程)における冷却とは
お茶の製造工程、特に摘みたての生葉を一次加工する「荒茶工程」において、「冷却」は絶対に欠かせないプロセスです。
しかし、ただ茶葉を冷ましているだけ…なんて思っていたら大間違い!この工程には、
日本茶の品質を決定づけるための深い知恵と技術が隠されています。
煎茶づくりの全体像と冷却の位置付け
まずは、煎茶づくりにおける荒茶工程がどのようなものか、全体像を見てみましょう。まるで駅伝のように、各工程が次の工程へと最高の状態でタスキ(茶葉)を渡していきます。
- 摘採(茶摘み):お茶の木(チャノキ)から新芽を摘み取る作業のこと。
- 蒸熱(じょうねつ): 摘採した生葉を蒸気で蒸し、酸化酵素の働きを止める。お茶の品質を左右する最初の重要な工程。
- 冷却(れいきゃく): ← ココです!蒸した茶葉をすばやく冷まし、余分な水分を取り除く。
- 葉打ち(はうち):蒸した後の熱く湿った茶葉を攪拌(かくはん)する工程
- 粗揉(そじゅう): 熱風を送りながら、茶葉を揉んで乾燥させる最初の揉み工程。
- 揉捻(じゅうねん): 粗揉を経た茶葉に力を加え、水分をさらに均一化させる。
- 中揉(ちゅうじゅう):茶葉を再び熱風で乾燥させながら、よりをかけて細長く整える。
- 精揉(せいじゅう): 茶葉の形を針のようにまっすぐ美しく整え、乾燥を仕上げる。
- 乾燥(かんそう):茶葉の水分量が5%程度になるまでしっかりと乾燥させ、貯蔵性を高める。
- 荒茶(あらちゃ):お茶の一次加工品の完成!!



このように、日本茶の製造工程における冷却は、蒸熱の直後という非常に早い段階で登場します。まさに、美味しいお茶づくりのスタートダッシュを決める重要なポジションなのです。
冷却の基本的な役割
熱を取り除くだけではない
「冷却って、要は熱を取るだけでしょ?」と思ったそこのあなた。半分正解で、半分不正解です。
もちろん、蒸したての茶葉が持つ約95℃の熱を素早く取り除くことが第一の役割です。
しかし、それだけではありません。
冷却は、茶葉の美しい緑色と豊かな香りを守り、次の「揉み」の工程をスムーズに進めるための下準備という、まさに「縁の下の力持ち」的な役割を担っているのです。ただのクールダウンではなく、最高の日本茶を生み出すための、次への華麗なるステップと心得ましょう。
なぜ冷却は重要なのか?お茶のプロが語る3つの目的



では、なぜそこまでして茶葉を冷やす必要があるのでしょうか?お茶のプロたちが口を揃えて語る、冷却の3つの重要な目的をこっそりお教えします。
- 色と香りを守る「変質防止」
- 次の工程への下準備「水分の均一化」
- 効率的な製造のための「工程の最適化」
目的1:色と香りを守る「変質防止」について
蒸したての茶葉は、高温多湿の状態にあります。
この状態を放置してしまうと、茶葉はあっという間に「ムレ」てしまい、品質が著しく劣化します。
具体的には、緑茶の命ともいえる鮮やかな緑色が失われ、赤黒っぽく変色してしまいます。
これは、緑色の成分であるクロロフィルが高温で分解されてしまうためです。



爽やかな香りも損なわれ、いわゆる「ムレ臭」という好ましくない香りが発生してしまいます。
- スピードが命: 蒸し上がったら、一刻も早く冷却を開始する。
- 目標温度: 茶温を35℃以下にまで下げることで、品質劣化を食い止める。
この素早い冷却こそが、日本茶の美しい色と香りを守るための絶対条件です。
目的2:次の工程への下準備「水分の均一化」について
冷却は、単に温度を下げるだけでなく、茶葉の表面に付着した余分な水分(蒸し露)を取り除く役割も担っています。
蒸したての茶葉は、表面が水滴で濡れています。このまま次の粗揉工程に進むと、茶葉が機械にくっついたり、ダマになったり(グシャつき)して、うまく揉むことができません。
送風によって表面の水分を適度に飛ばすことで、茶葉はサラサラの状態になり、次の揉む工程で均一に揉み込むことができるようになります。



これは、料理でいうところの「下ごしらえ」のようなもの。この一手間が、最終的なお茶の形状や味わいに大きく影響するのです。
目的3:効率的な製造のための「工程の最適化」について
美味しい日本茶を安定して大量に生産するためには、製造工程全体の効率化が不可欠です。
冷却工程は、次の粗揉工程の効率を上げるためにも重要な役割を果たします。
| 冷却が不十分な場合 | 適切な冷却が行われた場合 |
| 茶葉がベタつき、機械の処理能力が落ちる | 茶葉が扱いやすくなり、機械がスムーズに動く |
| 揉みムラができ、品質が安定しない | 均一に揉むことができ、安定した品質を保てる |
| 工程全体の時間が長くなる | 粗揉工程の時間を短縮できる |
このように、適切な冷却は後続の工程を最適化し、工場全体の生産性を向上させることにも繋がっているのです。
徹底解説!日本茶の冷却方法と専門機器
「冷却が重要なのはわかったけど、一体どうやって冷やしているの?」そんなお茶オタクのあなたの知的好奇心を満たすべく、冷却のメカニズムと専門的な機械について徹底解説します。
冷却のメカニズム
気化熱の利用
日本茶の冷却で利用されているのは、「気化熱」という物理現象です。
- お風呂上がりに体が少し冷える
- 打ち水をすると涼しく感じる
- 注射の前にアルコール消毒をするとヒヤッとする
茶葉の冷却もこれと全く同じ原理です。
蒸した茶葉の表面についている水滴に風を送ることで、水分が蒸発します。
その際に茶葉自身の熱が奪われ、温度が下がっていくのです。
冷却機の種類と構造
製茶工場では、この気化熱の原理を利用した専門の「冷却機」が活躍しています。
- 散茶冷却機(さんちゃれいきゃくき)
- 強制冷却機(きょうせいれいきゃくき)
①散茶冷却機(さんちゃれいきゃくき)


この機械は、風の力で蒸し上がった茶葉を宙に舞い上がらせ、フワフワと拡散させながら冷却する装置です。
ネットで覆われた大きな筒のような形状から、通称「あんどん」とも呼ばれています。
- 茶葉同士が重なり合うのを防ぎ、ムラなく冷却できる。
- 茶葉を一枚一枚分離させ、表面の水分を効率的に除去する。
- 切れ葉や茎などを風力で選別する機能を持つものもある。
②強制冷却機(きょうせいれいきゃくき)
より積極的に、そして強力に茶葉を冷やすのが「強制冷却機」です。
コンベアで運ばれてくる茶葉に対して、冷風を直接吹き付けて冷却します。
- 一次冷却だけでは下がりきらない茶温を、さらに4〜5℃低下させることができる。
- 茶温を30℃程度までしっかり下げることで、品質向上に大きく貢献する。
- スポットエアコンなどを利用して冷気を生成し、効率的に冷却を行う。
冷却がお茶の味・香り・水色に与える影響
さて、ここまでくれば冷却がいかに重要かお分かりいただけたかと思います。
最後に、この日本茶の製造工程における冷却の成否が、最終的なお茶の品質、つまり私たちの飲む一杯にどう影響するのかを見ていきましょう。
冷却が成功するとどうなる?
適切な冷却、特に二次冷却などで茶温を30℃程度までしっかりと下げることができた場合、お茶の品質は格段に向上します。
- 色沢(しきたく): 茶葉の色ツヤが良くなり、鮮やかな緑色が保たれます。
- 香気: ムレ臭がなく、爽やかで清々しい香りが引き立ちます。
- 水色(すいしょく): お茶を淹れたときの色が、澄んだ美しい黄金色になります。



まさに、いいこと尽くめ!一杯のお茶に込められた作り手の努力が、見事に花開いた瞬間です。
冷却が不十分だとどうなる?
逆に、冷却が不十分だったり失敗したりすると、お茶の品質は悲しいほどに劣化してしまいます。
- 変色・変質: 茶葉は熱によって変質し、鮮やかな緑色は失われ、赤黒っぽい色合いになります。
- 香りの劣化: 爽やかな香りは消え、不快な「ムレ臭」が発生します。
- 味への影響: 茶葉の成分が変質し、雑味が出やすくなります。
- 次の工程への悪影響: 茶葉がベタつき、揉む工程で均一に仕上がらず、お茶の形も悪くなります。
たった数分の冷却を怠るだけで、せっかくの良い生葉が台無しになってしまうこともあるのです。日本茶づくりは、まさに真剣勝負の世界です。



昔、某お茶のペットボトルのCMで雑味がウンヌンカンヌン言ってた、あれは…冷却が失敗してても…ってやつかな笑
業界内での笑い話だったのを思い出しました。
AFTERWORD
一杯のお茶に込められた「冷却」の知恵
今回は、日本茶の製造工程における「冷却」という、少しマニアックな世界を深掘りしてみました。
単に熱を取るだけでなく、お茶の色・香り・味を守り、製造効率まで左右する、まさに「縁の下のヒーロー」のような存在であることがお分かりいただけたのではないでしょうか。
次にあなたが急須で日本茶を淹れるとき、その一杯の向こう側で繰り広げられた、蒸気と熱と風のドラマに思いを馳せてみてください。
きっと、いつものお茶がもっと愛おしく、そしてもっと美味しく感じられるはずです。
さあ、今すぐ最高の一杯を淹れて、冷却の知恵に乾杯しましょう。



あと案件じゃないですけど、お茶の製造機械どんなんか知りたい方は、カワサキ機工株式会社さんのURLリンクこちらに勝手ながら乗せておくので見てみると面白いと思うので乗せておきます。(外部リンク)許可下りればの話ですが(笑)
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