「中揉(ちゅうじゅう)」とは?
日本茶の味わいを決める重要な工程
「このお茶、なんだか味がぼやけてる…」「こっちはキリッとしてて美味しい!」なんて感じたことはありませんか?
その違い、もしかしたら「中揉(ちゅうじゅう)」という、日本茶の製造過程における、少しマニアックですが非常に重要な工程が関係しているかもしれません。
日本茶アドバイザーパトラッシュ♂「ちゅうじゅう?何かの呪文?」と思ったそこのあなた、惜しい!
これは、摘みたての茶葉が、私たちが普段目にする美しい針のような形のお茶になるまでの、変身プロセスの一部なのです。
この記事では、日本茶の味、香り、見た目を決定づける影の立役者、「中揉」について、お茶初心者の方から、すでに沼にハマっている日本茶オタクの皆さんまで、思わず「へぇ〜!」と膝を打ちたくなる情報をお届けします。
これを読めば、次にお茶を飲むとき、その一滴の向こうに広がる職人たちの熱いドラマが垣間見えるはず…
「中柔」は誤り?
まずは正しい読み方と漢字を知ろう
まず、このミステリアスな工程の名前から解き明かしていきましょう。インターネットで検索すると「中柔」という漢字を見かけることがありますが、これはよくある誤りです。
正しくは「中揉」と書き、「ちゅうじゅう」と読みます。
「揉」という漢字が使われている通り、この工程では茶葉を文字通り「揉む」作業が行われます。
「柔らかい」という意味の「柔」ではないんですね。
ただ優しく扱うだけでなく、もっとダイナミックな工程であることが想像できます。



この「揉む」という行為が、日本茶の奥深い味わいにどう繋がっていくのか、見ていきましょう。モミモミ…❤️
そもそも中揉とは?
煎茶の製造工程における位置付け
中揉は、煎茶づくりの一連の流れの中で、ちょうど中間あたりに位置する重要なステップです。
摘みたての生葉が、蒸され、何度も揉まれ、乾燥していく中で、中揉は味と香りの基礎を固める役割を担っています。
煎茶(普通蒸し)の製造工程と中揉のステップ
煎茶(特に普通蒸し煎茶)がどのように作られるのか、その全体像を見てみましょう。中揉がどのタイミングで登場するのかに注目してください。
- 摘採(茶摘み):お茶の木(チャノキ)から新芽を摘み取る作業のこと。
- 蒸熱(じょうねつ): 摘採した生葉を蒸気で蒸し、酸化酵素の働きを止める。お茶の品質を左右する最初の重要な工程。
- 冷却(れいきゃく):蒸した茶葉をすばやく冷まし、余分な水分を取り除く。
- 葉打ち(はうち):蒸した後の熱く湿った茶葉を攪拌(かくはん)する工程
- 粗揉(そじゅう): 熱風を送りながら、茶葉を揉んで乾燥させる最初の揉み工程。
- 揉捻(じゅうねん): 粗揉を経た茶葉に力を加え、水分をさらに均一化させる。
- 中揉(ちゅうじゅう): ← ココです!茶葉を再び熱風で乾燥させながら、よりをかけて細長く整える。
- 精揉(せいじゅう): 茶葉の形を針のようにまっすぐ美しく整え、乾燥を仕上げる。
- 乾燥(かんそう):茶葉の水分量が5%程度になるまでしっかりと乾燥させ、貯蔵性を高める。
- 荒茶(あらちゃ):お茶の一次加工品の完成!!
中揉の目的
なぜこの工程が必要なのか?
では、なぜわざわざ「中揉」という工程を挟むのでしょうか?その目的は大きく分けて3つあります。
- 水分の均一な乾燥:揉捻で葉の内部から表面に出てきた水分を、効率よく飛ばします。
この時、塊になった茶葉をほぐすことで、乾燥ムラを防ぎます。 - 形状形成の準備:次の精揉工程で、茶葉が美しく均一な針状になるように、茶葉を適度に乾燥させ、柔軟性を持たせます。いわば、最終仕上げのための下準備です。
- 品質の安定:中揉で茶葉の状態を整えることで、その後の精揉や乾燥工程がスムーズに進み、結果としてお茶の品質が安定します。



まさに、美味しい日本茶を作るための「縁の下の力持ち」的な存在、それが中揉なのです。
中揉の具体的な作業内容と茶葉の変化
「揉みながら乾燥させる」と言っても、具体的に何が行われているのでしょうか。
ここでは、中揉機の動きと、それによって茶葉がどのように変化していくのかを覗いてみましょう。


中揉機の構造と動き
中揉機は、一般的に回転するドラム(胴)とその内部にある「揉み手」と呼ばれる突起から構成されています。
- 回転するドラム:揉捻を終えて塊になった茶葉を投入すると、ドラムが回転することで茶葉が撹拌され、ほぐれていきます。
- 揉み手:ドラムの内部には、複数の「揉み手」が設置されており、これが茶葉に圧力を加えながら揉み込んでいきます。
- 熱風:同時に、ドラム内には熱風が送り込まれ、揉み出された水分を効率的に乾燥させます。
この「ほぐす・揉む・乾かす」という3つの動きの絶妙なコンビネーションによって、茶葉は次の精揉工程に最適な状態へと変化していくのです。
茶葉の水分量の変化
中揉は、茶葉の水分量をコントロールする上で非常に重要な役割を果たします。
| 工程 | 水分率の目安 | 状態 |
| 揉捻後(中揉前) | 約50% | 茶葉が塊になりやすく、内部に水分を多く含んでいる。 |
| 中揉後 | 約30% | 茶葉の表面は乾き、内部の水分もかなり抜けている。 |
このように、中揉工程だけで多くの水分が取り除かれます。
職人は茶葉の状態を見極めながら、熱風の温度や機械の回転数を細かく調整し、理想的な乾燥状態を目指します。
茶葉の見た目と手触りの変化
中揉を経ることで、茶葉の見た目や手触りも劇的に変わります。
- 見た目:揉捻でできた塊(玉)がほぐれ、茶葉一本一本が撚られながら細くなっていきます。
色も深みを増し、ツヤが出始めます。 - 手触り:最初はしっとりと湿っていた茶葉が、工程の終わりにはサラサラとした感触に変わります。
職人は、手で握って離したときのほぐれ具合で、乾燥度合いを判断します。



この変化は、まさに茶葉が「お茶」へと生まれ変わる瞬間の一つと言えるでしょう。
中揉が日本茶の「味・香り・見た目」に与える影響
地味に見える中揉ですが、実はお茶の最終的な品質を大きく左右する、非常にデリケートな工程です。
「味・香り・見た目」
- 味への影響:旨み成分を引き出す
- 香りへの影響:温度管理が鍵
- 見た目(形状と色沢)への影響
味への影響:旨み成分を引き出す
中揉での適切な揉みと乾燥は、茶葉の細胞を壊しすぎずに、旨み成分であるアミノ酸(テアニンなど)を効率よく引き出すことにつながります。
揉み方が強すぎると雑味が出やすくなり、弱すぎると味が出にくいお茶になってしまいます。
中揉で水分を均一に飛ばすことで、その後の工程で成分が安定して抽出されるようになり、バランスの取れた味わいが生まれるのです。
香りへの影響:温度管理が鍵
お茶の香りは、生葉由来の爽やかな香りと、製造工程の熱で生まれる香ばしい香りの2種類があります。
中揉では熱風を使って乾燥させるため、この時の温度管理が非常に重要です。
温度が高すぎると、茶葉が焦げてしまい、せっかくの爽やかな香りが損なわれてしまいます。
職人は、茶温を人肌程度の36℃前後に保ちながら、お茶のポテンシャルを最大限に引き出す絶妙な火加減を調整しているのです。
見た目(形状と色沢)への影響
中揉は、最終的なお茶の見た目、つまり「形状」と「色沢(しきたく)」にも影響を与えます。
味・香り・見た目の三拍子が揃った美味しい日本茶は、この中揉という緻密な作業に支えられています。
【日本茶オタク向け】さらに深く知る中揉の世界
ここからは、さらに一歩踏み込んだマニアックな中揉の世界へご案内します。
「普通の話じゃ物足りない!」という日本茶オタクの皆さん、お待たせしました。
手揉み製法における中揉の技術
現在のお茶作りのほとんどは機械化されていますが、その原点はすべて「手揉み」にあります。
手揉み製法における中揉は「揉み切り」や「中揉み」と呼ばれ、製茶工程の中でも特に高度な技術を要する部分です。
職人は「焙炉(ほいろ)」という和紙を張った加熱台の上で、茶葉の状態を手のひらで感じ取りながら、体重をかけ、リズミカルに茶葉をこすり合わせるように揉んでいきます。
- 目的:機械製法と同じく、茶葉を撚りながら乾燥させることが目的です。
- 技術:両手で茶葉を挟み、前後にこすり合わせるように動かし、茶葉一本一本によりをかけていきます。
この力加減とリズムが、お茶の味と香りを決定づけます。 - 時間:この工程だけで1時間以上かかることもあり、まさに職人の経験と勘が試される時間です。
機械製茶の動きは、この手揉みの繊細な動きを再現したもの。手揉み茶を味わう機会があれば、その一滴に込められた職人の超絶技巧をぜひ感じてみてください。



今現在では手揉みをやっているところはほぼ無いかもしれませんね。
中揉をしないお茶もある?「玉緑茶」の製法
すべての日本茶が、煎茶と同じように針状の形をしているわけではありません。
九州地方を中心に作られている「玉緑茶(たまりょくちゃ)」、別名「ぐり茶」は、その名の通り、勾玉(まがたま)のように丸まった形が特徴です。
この独特な形は、製造工程の違いから生まれます。
玉緑茶の製法では、煎茶で行われる最後の揉み工程「精揉」を省きます。
その代わりに「再乾機」という回転するドラム式の乾燥機を使い、茶葉を転がしながら乾燥させることで、自然と丸まった形になるのです。
中揉までは煎茶とほぼ同じ工程をたどりますが、最後の仕上げ方の違いが、これほどユニークな見た目と、渋みが少なくまろやかな味わいを生み出しています。
AFTERWORD
中揉を知れば、日本茶がもっと美味しくなる
日本茶の製造工程における「中揉(ちゅうじゅう)」。
それは、ただ茶葉を揉んで乾かしているだけではない、味・香り・見た目の三位一体を完成させるための、緻密で繊細な工程でした。
- 正しい名称:「中柔」ではなく「中揉(ちゅうじゅう)」。
- 役割:煎茶製造の中盤で、水分の均一化と形状形成の準備を担う。
- 影響:絶妙な揉み加減と温度管理が、お茶の旨み、香り、美しい見た目を引き出す。
- 多様性:手揉み製法では職人技が光り、玉緑茶のように精揉をしないことで独特の個性が生まれる。
普段何気なく飲んでいる一杯の日本茶。その背景には、中揉をはじめとする数々の工程に込められた、作り手たちの知恵と情熱が詰まっています。
次に急須でお茶を淹れるとき、茶葉の形をじっくり観察してみてください。
その美しい針状の姿や、くるんと丸まった愛らしい形の中に、職人たちが「中揉」で繰り広げた静かな戦いの跡が見えてくるかもしれません。
そう思えば、いつものお茶が、もっと味わい深く、もっと愛おしく感じられるはずです。



あと案件じゃないですけど、お茶の製造機械どんなんか知りたい方は、カワサキ機工株式会社さんのURLリンクこちらに勝手ながら乗せておくので見てみると面白いと思うので乗せておきます。(外部リンク)許可下りればの話ですが(笑)
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