揉捻(じゅうねん)とは?
お茶作りにおける基本的な役割
「このお茶、葉っぱが針みたいに細長くてキレイ…でも、なんでこんな形なの?」
「そもそも、この『揉捻』ってなんて読むの?」
お茶好きの皆さん、こんにちは!普段何気なく飲んでいるその一杯。
実は、その美味しさと美しい見た目の裏側には、知られざる職人技と情熱が隠されています。
特に、お茶のポテンシャルを最大限に引き出すお茶作りの製法の中でも、超重要な工程が今回ご紹介する「揉捻(じゅうねん)」です。
そう、「じゅうねん」と読みます。なんだか必殺技みたいな名前ですが、お茶作りにおいてはまさに「美味しさの要」を担う必殺仕事なのです。
一言でいうと、揉捻とは「茶葉を揉むこと」。
しかし、ただ闇雲に揉んでいるわけではありません。
摘みたての瑞々しい生葉から、私たちが知っている乾燥した茶葉になるまでには、様々な「揉み」の技術が駆使されています。
日本茶アドバイザーパトラッシュ♂この揉むという作業こそ、お茶の個性と美味しさを決定づける、いわば愛と情熱のマッサージ。素材のポテンシャルを最高レベルまで引き出すシェフのように、茶師たちは葉の状態を見極めながら、絶妙な力加減で茶葉を揉み上げていきす。
なぜ揉捻は必要なのか?
美味しさを引き出す3つの理由
では、なぜわざわざ時間と手間をかけて茶葉を揉むのでしょうか?「
そのまま乾かせば楽なのに!」なんて声も聞こえてきそうですが、この揉捻こそが、お茶を単なる「乾いた葉っぱ」から、香り高く味わい深い「芸術品」へと昇華させる魔法なのです。
- お茶の成分を効率よく抽出するため
- 茶葉の水分を均一にするため
- 酸化発酵を促し、香りを豊かにするため(紅茶・烏龍茶の場合)
理由①:お茶の成分を効率よく抽出するため
お茶の美味しさの源であるカテキン(渋み)やテアニン(旨み)といった成分は、茶葉の細胞の中に大切に閉じ込められています。
揉捻は、この細胞壁に優しく、しかし確実に傷をつけることで、お湯を注いだ時にこれらの成分が溶け出しやすくする役割を担っています。



例えるなら、硬いオレンジをそのままかじるより、ギュッと絞ってジュースにする方が、甘みや香りをダイレクトに感じられますよね。
それと同じで、揉むことで茶葉が持つ本来の旨みや香りを、余すことなく引き出すことができます。
理由②:茶葉の水分を均一にするため
摘みたての茶葉は、葉の部分と茎の部分で硬さや厚さが異なり、当然ながら含まれる水分量もバラバラです。
そのまま乾燥させると、薄い葉先はすぐに乾いて焦げ、水分の多い茎は生乾き…なんていう悲劇が起こりかねません。
そこで揉捻の出番です。
茶葉に圧力をかけながら揉むことで、茎の中心部にある水分(芯水)を表面に押し出し、葉全体の水分を均一に整えます。
これにより乾燥ムラがなくなり、品質の安定した美味しいお茶が出来上がります。
これは美味しいお茶作りの製法に欠かせないポイントです。
理由③:酸化発酵を促し、香りを豊かにするため(紅茶・烏龍茶の場合)
緑茶(不発酵茶)とは異なり、紅茶(発酵茶)や烏龍茶(半発酵茶)の製造において、揉捻は酸化発酵をコントロールするという非常に重要な役割を果たします。
茶葉を揉んで細胞を壊すと、葉に含まれる酸化酵素がポリフェノール類と結びつき、酸化発酵が始まります。
この発酵こそが、紅茶の美しい赤褐色や、烏龍茶特有の華やかな香りを生み出す源なのです。
紅茶の場合は、意図的に酸化を促すために、加熱して発酵を止める「殺青」の前に揉捻を行い、あの豊かな香りと味わいを作り出しています。
煎茶の製造工程と各段階での「揉む」作業
お茶作りの花形とも言える「揉む」作業。ここでは、最もポピュラーな煎茶(せんちゃ)の製造工程(荒茶段階)を例に、どのタイミングで、どのような「揉み」が行われているのかを見ていきましょう。
煎茶の製造工程(荒茶)
お茶の製造は、茶畑の近くの工場で行う「荒茶」工程と、それをさらに仕上げる「仕上げ」工程の二段階に分かれています。揉捻は、その最初のステップである荒茶工程の主役です。
- 摘採(茶摘み):お茶の木(チャノキ)から新芽を摘み取る作業のこと。
- 蒸熱(じょうねつ): 摘採した生葉を蒸気で蒸し、酸化酵素の働きを止める。お茶の品質を左右する最初の重要な工程。
- 冷却(れいきゃく): 蒸した茶葉をすばやく冷まし、余分な水分を取り除く。
- 葉打ち(はうち):蒸した後の熱く湿った茶葉を攪拌(かくはん)する工程
- 粗揉(そじゅう): 熱風を送りながら、茶葉を揉んで乾燥させる最初の揉み工程。
- 揉捻(じゅうねん):← ココです! 粗揉を経た茶葉に力を加え、水分をさらに均一化させる。
- 中揉(ちゅうじゅう):茶葉を再び熱風で乾燥させながら、よりをかけて細長く整える。
- 精揉(せいじゅう): 茶葉の形を針のようにまっすぐ美しく整え、乾燥を仕上げる。
- 乾燥(かんそう):茶葉の水分量が5%程度になるまでしっかりと乾燥させ、貯蔵性を高める。
- 荒茶(あらちゃ):お茶の一次加工品の完成!!
| 工程 | 読み方 | 主な作業内容 | 「揉む」との関連 |
| ① 蒸熱 | じょうねつ | 摘んだ生葉を蒸気で蒸し、酸化酵素の働きを止める。 | 揉む前の下準備。緑茶の「緑」を保つ重要な工程。 |
| ②冷却 | れいきゃく | 蒸した葉を急速に冷やし、品質の劣化を防ぐ。 | – |
| ③粗揉 | そじゅう | 熱風を当てながら、葉の表面を乾かしつつ優しく揉む。 | 【揉む①】 本格的な揉みの第一歩。 |
| ④揉捻 | じゅうねん | 熱を加えず、圧力をかけて揉み、茶葉の水分を均一にする。 | 【揉む②】 この記事の主役!成分を揉み出す。 |
| ⑤中揉 | ちゅうじゅう | 茶葉の塊をほぐしながら、再び熱風を当てて揉み、形を整える。 | 【揉む③】 形を整えながら乾燥を進める。 |
| ⑥精揉 | せいじゅう | 熱を加えながら、美しい針状に形を整え、仕上げの乾燥を行う。 | 【揉む④】 美しさの決め手!職人技が光る。 |
| ⑦乾燥 | かんそう | 水分量が5%以下になるまで乾燥させ、貯蔵性を高める。 | – |



このように、煎茶作りでは実に4段階もの「揉む」工程を経て、あの一本の美しい茶葉が生まれます。
手揉みと機械揉みの違い
現在、市場に出回っているお茶のほとんどは機械で製造されていますが、今なお伝統的な「手揉み」の技術も受け継がれています。
両者にはどのような違いがあるのでしょうか。
伝統製法「手揉み」の魅力
機械を一切使わず、職人が五感を頼りに、焙炉(ほいろ)と呼ばれる加熱した台の上で、何時間もかけて茶葉を揉み上げていくのが手揉み茶です。
- 芸術的な美しさ:熟練の職人が仕上げた手揉み茶は、機械では到底真似できないほど細く、艶やかな針状の形をしています。
- 雑味のないクリアな味わい:茶葉の状態に合わせて力加減を微調整するため、余計な力を加えることなく、澄んだ味わいを引き出すことができます。
- 何煎でも楽しめる:葉の細胞が過度に破壊されていないため、お湯を注ぐと摘み取った時の葉の形にきれいに戻り、何煎も美味しく楽しむことができます。
一度に作れる量がごくわずかで非常に希少価値が高いため、芸術品として高値で取引されることも少なくありません。
現代の主流「機械揉み」の特徴
手揉みの繊細な動きを参考に開発された製茶機械によって、高品質なお茶を大量に生産できるのが機械揉みの特徴です。
- 品質の安定:設定されたプログラム通りに動くため、常に安定した品質のお茶を生産できます。
- 大量生産による手頃な価格:一度に大量の茶葉を加工できるため、私たちは手頃な価格で美味しいお茶を楽しむことができます。
- 技術の進化:近年では、職人の感覚をデータ化し、より手揉みに近い繊細な動きを再現する高性能な機械も開発されています。
明治時代に粗揉機が発明されて以来、日本の製茶技術は大きく発展しました。
今、私たちが毎日美味しいお茶を飲めるのは、この機械化の恩恵が大きいと言えるでしょう。
AFTERWORD
揉捻を理解してお茶をもっと楽しもう
何気なく見ていた茶葉の形に、これほど多くのドラマと技術が詰まっていたとは、驚きだったのではないでしょうか。
お茶作りにおける「揉捻」は、単に葉を揉むだけの作業ではありません。
- 美味しさの成分を引き出し(成分抽出)
- 品質を均一に保ち(水分均一化)
- 豊かな香りを生み出す(酸化発酵促進)
という、お茶の個性を決定づけるための、緻密で計算され尽くした製法なのです。
次に急須でお茶を淹れる時は、ぜひ茶葉をじっくりと観察してみてください。
その一本一本の美しい姿に、茶師たちの情熱と技、そして「揉捻」という名の壮大な物語を感じることができるはずです。
お茶作りの背景を知ることで、いつもの一杯が、きっと何倍も美味しく、そして愛おしく感じられることでしょう。
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