【合組(ごうぐみ)】:日本茶のブレンド技術が生む味と香りの調和

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究極の一杯はこうして生まれる!

茶師の芸術「合組」の世界へようこそ

お茶好きの皆さん、こんにちは!あなたが今飲んでいるその一杯、本当に「最高に美味しい!」と心から言えますか?

もし少しでも「まあ、こんなものかな…」と感じているなら、非常にもったいない!

そのお茶が、実は選び抜かれたエリート茶葉たちによる奇跡のハーモニー、「合組(ごうぐみ)」の技術によって生み出された芸術品かもしれません。

日本茶アドバイザーパトラッシュ♂

「合組」とは、お茶の最終仕上げ工程で行われる、いわばお茶界のオーケストラ。
個性豊かな茶葉たち(奏者)を、茶師(指揮者)がまとめ上げ、究極の一杯という名の交響曲を奏でる、壮大でアーティスティックな技術です。

合組(ごうぐみ)とは?

単なるブレンドではないその本質

「合組?ああ、コーヒーやワインで言うところのブレンドでしょ?」と思ったあなた、正解のようで、実は少し違います。

お茶の世界における「合組」は、単に混ぜ合わせるだけでなく、より高みを目指す創造的な行為なのです。

合組とは、産地、品種、収穫時期、蒸し具合などが異なる複数の「荒茶(あらちゃ)」※を組み合わせ、茶師が狙った通りの「味・香り・水色(すいしょく)」を持つお茶を創り出す、日本茶ならではの伝統技術です。

それぞれの茶葉が持つ長所を最大限に引き出し、短所を補い合うように配合を決める様は、まさに芸術。

1+1を2で終わらせず、3にも5にも昇華させる魔法、それが合組の本質!

荒茶(あらちゃ)とは?
茶畑で摘まれた生葉を、蒸し・揉み・乾燥といった一次加工を施した、いわば「お茶の素」。
まだ茎や粉などが混じった状態で、ここから仕上げ工程を経て製品になります。

なぜ合組は必要なのか?

「摘みたての単一茶葉が一番美味しいのでは?」と思うかもしれません。

しかし、私たちが美味しいお茶をいつでも楽しめる背景には、合組が果たす重要な目的があります。

合組の3つの秘密
  • 理想の「味・香り・水色」を創造する芸術
  • 年間を通じて「品質の安定」を保つ
  • 個性を掛け合わせ、新たな価値を創造する

目的①:理想の「味・香り・水色」を創造する芸術

合組の最大の目的は、茶師が思い描く「最高の味と香り」をゼロから創造することです。

味、香、色のハーモニー
  • :「Aの茶葉の濃厚な旨味」と「Bの茶葉の爽やかな渋み」を掛け合わせ、複雑な味わいを構築する。
  • 香り:「Cの茶葉が持つ若々しい香り」に、「Dの茶葉の奥深い火香(ひか)」を加え、香りに奥行きを持たせる。
  • 水色:理想の美しい緑色を表現するために、色の出やすい茶葉を巧みに配合する。

このように、異なる個性を持つ茶葉をパズルのように組み合わせることで、単一の茶葉では決して表現できない、完璧なバランスのお茶を創り出す。

これこそが茶師の腕の見せ所であり、芸術作業なのです。

目的②:年間を通じて「品質の安定」を保つ

お茶は自然の恵み、つまり農産物です。

同じ茶園であっても、その年の天候や収穫タイミングによって品質は微妙に変化します、むしろ全く同じ品質の茶葉は収穫する方が難しいです。

「去年は美味しかったのに、今年のお茶はなんだか味が薄い…」なんてことが起きてしまうのです。

そこで茶師の出番。

毎年仕入れる荒茶の特性を厳しく吟味し、配合をミリ単位で微調整することで、品質のブレを最小限に抑えます

この地道な作業のおかげで、お茶屋さんは「いつものあの味」を一年中安定して提供でき、私たちはいつでも安心してお気に入りのお茶を楽しめます。

目的③:個性を掛け合わせ、新たな価値を創造する

合組は、単に欠点を補う守りの技術ではありません。

それぞれの茶葉の持つ「強すぎる個性」すらも、魅力的な長所に変えてしまう攻めの技術でもあります。

日本茶アドバイザーパトラッシュ♂

例えば、香りは抜群に良いものの味が薄い茶葉と、味は濃厚ですが香りが弱い茶葉。
単体では商品になりにくいこれらの茶葉も、合組によって互いを補い合うことで、香りと味を両立した素晴らしいお茶に生まれ変わります。

このように、個性を掛け合わせることで全く新しい価値を生み出し、お茶の可能性を無限に広げるのも合組の重要な役割です。

茶師の五感が試される!合組の具体的な3ステップ

では、茶師は具体的にどのようにして「合組」を行っているのでしょうか。

そこには、科学的な分析と、長年の経験に裏打ちされた職人の勘が交差する、濃密な3つのステップが存在します。

濃密な3ステップ
  • 荒茶の「拝見(はいけん)」と特性の分析
  • 味と香りの設計図「配合の決定」
  • 均一に混ぜ合わせる「攪拌(かくはん)」

ステップ1:荒茶の「拝見(はいけん)」と特性の分析

合組のスタートラインは、原料となる数十〜数百種類もの荒茶を吟味する「拝見(はいけん)」です。

これは、茶師が五感をフル活用して茶葉の品質や個性を見極める、最も重要な工程と言っても過言ではありません。

五感による拝見チェック項目茶師の心の声(想像)
視覚茶葉の色、ツヤ、形状、大きさ「む、こやつは深緑でツヤがある。いい蒸し具合だな…」
触覚茶葉の重さ、感触、しなやかさ「手に取るとずっしり重い。旨味が凝縮されている証拠だ」
嗅覚茶葉の香り(乾燥状態とお湯を注いだ後)「おお、爽やかな若葉の香り!こいつは香りのエースにしよう」
味覚お湯で浸出したお茶の味と香り「うむ、強い渋み。だが後から来る旨味がすごい。こいつは隠し味だな」

茶師は、この拝見によって各茶葉の「履歴書」を頭の中にインプTプットし、それぞれの個性や役割を瞬時に見抜いていくのです。

ステップ2:味と香りの設計図「配合の決定」

拝見で得た膨大な情報をもとに、いよいよ合組の心臓部である「配合の決定」に移ります。

頭の中にある数百種類の茶葉のデータを駆使し、最終的なお茶の完成形をイメージしながら、どの茶葉をどのくらいの割合で混ぜるかを決定します。

これは、まさに「味と香りの設計図」を描く作業。

設計図の組み方
  • ベース:味の土台となる茶葉(例:旨味の強い「やぶきた」を50%)
  • アクセント:香りや特徴を加える茶葉(例:香りの良い「さえみどり」を20%)
  • 調整:渋みやコクを調整する茶葉(例:力強い渋みの山間地茶を10%)
  • 色味:水色を整える茶葉(例:色の出やすい深蒸し茶を20%)

このように、複雑な方程式を解くように配合を組み立てていきます。

日本茶アドバイザーパトラッシュ♂

この配合比率こそが、各お茶屋さんの「秘伝のレシピ」であり、他には真似できない独自の味を生み出すのです。

ステップ3:均一に混ぜ合わせる「攪拌(かくはん)」

設計図が完成したら、最後は物理的に混ぜ合わせる「攪拌(かくはん)」です。

決定した配合比率に基づき、茶葉を巨大な攪拌機(ブレンダー)に投入し、均一になるように混ぜ合わせます。

一見地味な作業ですが、ここで手を抜くと全てが台無しに!

形状や比重が異なる茶葉を、壊さずに優しく、しかし確実に混ぜるには、機械の回転数や時間など、細かなノウハウが求められます。この工程を経て、ようやく1つの「製品」としてのお茶が完成します。

【お茶オタク向け】もっと知りたい合組の深淵

さて、ここからは「普通の話じゃ物足りない!」という、探求心旺盛なあなたに贈る、合組のディープな世界にご案内します。

シングルオリジン(単一茶園)と合組茶の違いとは?

最近よく耳にする「シングルオリジン」。

これは、合組を行わず、単一の生産者・茶園の茶葉だけで作られたお茶を指します。

両者の違いを理解すると、お茶選びがさらに楽しくなります。

合組茶(ブレンド)シングルオリジン
コンセプト理想の味を「創造」する茶葉本来の個性を「楽しむ」
味わいバランスが良く、複雑で奥行きがある個性的で、その年・その土地の味(テロワール)がダイレクトに伝わる
品質年間を通じて安定その年の出来によって味わいが変化する(一期一会)
例えるならオーケストラの交響曲天才バイオリニストのソロ演奏
日本茶アドバイザーパトラッシュ♂

どちらが良い悪いという話ではありません。
緻密に計算された調和を楽しむのが合組茶、一期一会の出会いと個性を楽しむのがシングルオリジン。その日の気分で飲み分けるのが、真のお茶通と言えるのではないでしょうか。

私は、両方好きです。

抹茶やほうじ茶にもある「合組」の技術

合組は煎茶だけの専売特許ではありません。

実は、抹茶ほうじ茶の世界でも、この技術は味の決め手となる非常に重要な役割を担っています。

抹茶とほうじ茶の合組
  • 抹茶:抹茶の原料である「碾茶(てんちゃ)」も、合組によって味や色の調整が行われます。
    特に茶道で使われる各流派御好みの抹茶は、それぞれの流派が求める味わいに合わせて、極めて繊細な合組が施されています。
  • ほうじ茶:香ばしさが命のほうじ茶も、焙煎前の茶葉(番茶茎茶など)を合組することで、香りの質や味わいの深みをコントロールしています。
    茎の甘い香りと葉の香ばしさをブレンドするなど、ここでも茶師の技が光ります。

茶師の技量が試される「全国茶審査技術競技大会」

茶師の「拝見」の技術、つまりお茶を見分ける能力を競う、まさに茶師のオリンピックとも言える大会が存在します。

それが「全国茶審査技術競技大会」です。

この大会では、産地や品種の異なる複数のお茶を、見た目や香り、味だけで正確に判別する技術を競い合います。

上位入賞者には最高の栄誉である段位が与えられ、その能力はお茶業界の誰もが認めるところ。お茶屋さんの店主がこの大会の入賞者であれば、そのお店の合組技術への信頼度は絶大と言えるのではないでしょうか。

美味しい合組茶の見つけ方と楽しみ方

「合組のすごさは分かったけど、じゃあどうやって美味しいお茶を見つければいいの?」というあなたへ。

最後に、合組茶を120%楽しむためのヒントを伝授します。

お茶屋さんの「こだわり」を知る

合組茶は、そのお茶屋さんの「作品」であり「顔」です。

お店のウェブサイトや店頭のポップで、「どんな想いでこのお茶を合組したのか」「どんな味を目指したのか」といったストーリーを調べてみると面白いし、オススメが見えてくるかもしれません。

作り手のこだわりを知ることで、お茶一杯の味わいが何倍にも深まるはずです。

自分の「好み」を伝えて選んでもらう

お茶屋さんに行ったら、恥ずかしがらずに自分の好みを伝えてみましょう。

例:自分の好みを伝える!
  • 「渋みが少なくて、甘みが強いお茶が好きです」
  • 「朝、シャキッと目が覚めるような爽やかな香りのものが欲しいです」
  • 「食後に飲む、すっきりした後味のお茶を探しています」

プロの店員さんなら、あなたの好みを的確に理解し、数ある商品の中から「これぞ!」という一本を提案してくれます。

これこそが、多種多様な合組茶を持つ専門店の強みです。

日本茶アドバイザーパトラッシュ♂

私も踏まえて、むしろお茶を愛してやまない方であればあるほど、その要望に沿ったお茶やそれ以上の提案をしてくれるはずです。

恥ずかしがらず寧ろお茶の質問をしてもらう方が嬉しいまであるので、どんどん自分の推し茶を探すのに利用してみて下さい。笑

合組体験でオリジナルブレンドを作ってみる

最近では、観光地や一部のお茶屋さんで「合組体験」ができる場所も増えてきました。

自分で数種類の茶葉をテイスティングし、世界に一つだけのオリジナルブレンド茶を作ることができます。

実際にやってみると、その難しさと奥深さに驚くはず。

茶師へのリスペクトが爆上がりすると同時に、自分だけの「マイブレンド」を作る楽しさにハマってしまうかもしれません。

AFTERWORD

合組を知れば、お茶はもっと美味しくなる

単なるブレンドとは一線を画す、茶師の芸術「合組」。

その目的は、理想の味を創り出し、品質を安定させ、新たな価値を生み出すことにあります。

茶師が五感を研ぎ澄ませて茶葉と向き合う「拝見」から、緻密な「配合決定」、そして丁寧な「攪拌」を経て、究極の一杯は私たちの元に届けられるのです。

合組の世界を知ることは、お茶のラベルの裏に隠された、壮大な物語を読み解くこと。

次にあなたがお茶を淹れるとき、その湯気の向こうに、誇らしげな茶師の顔が見えてくるかもしれません。

今日からあなたも、この奥深い「合組」の世界に足を踏み入れてみませんか?きっと、いつものお茶がもっともっと美味しく、そして愛おしくなるはず!

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