「乾燥」はなぜ重要?
日本茶における2つの役割
日本茶のあの奥深い味わいと香ばしい香り。
日本茶アドバイザーパトラッシュ♂その陰には、「乾燥」(かんそう)という名の敏腕プロデューサーの存在があることをご存知でしたか?
「え、ただ乾かしてるだけでしょ?」と思ったそこのあなた、侮っちゃならない工程。
日本茶の製造工程における「乾燥」は、単に水分を飛ばすだけの単純作業ではないのです。
実は、この「乾燥」には大きく分けて2つの重要な役割があり、それぞれがお茶の個性と品質を決定づける超重要ミッションを担っています。
- 長期保存と品質維持のため
- 個性と香りを引き出すため
荒茶の「乾燥」
長期保存と品質維持の要
まず一つ目は、摘みたての生葉から一次加工品である「荒茶(あらちゃ)」を作る段階で行われる乾燥です。
この工程の最大の目的は、茶葉の水分量を約5%以下まで一気に下げること。
なぜなら、水分が残っていると微生物が元気に活動してしまい、せっかくのお茶がカビたり、風味が落ちたりする原因になるからです。



この乾燥によって、お茶の品質を長期間キープするための、いわば「美味しさのタイムカプセル化」が実現します。
これが、私たちのもとへ美味しいお茶が届くって仕組みですね。
仕上げの「火入れ」
個性と香りを引き出す魔法
そして二つ目が、荒茶を製品として仕上げる最終段階で行われる「火入れ」という名の乾燥です。
こちらは単なる乾燥ではなく、熱を加えることでお茶のポテンシャルを最大限に引き出す「仕上げの魔法」。
この火入れによって、茶葉特有の青臭さが和らぎ、「火入れ香(ひいれか)」と呼ばれる食欲をそそる香ばしい香りが生まれます。
火加減ひとつで、お茶の味わいや香りはガラリと変わるため、ここがまさにお茶屋さんの腕の見せ所。



この工程一つで、お店の個性が光る、究極の仕上げ工程ですね。
私は、子供の時に荒茶を火入れし過ぎて焦がしてしまい…
ドチャクソ怒られた事を今でも思い出します笑
【荒茶:基本編】
揉みと乾燥の繰り返しが生む、煎茶の原型
さて、ここからは荒茶が完成するまでの道のりを見ていきましょう。



それはまるで、茶葉が美しくなるためのスパルタジム!「揉む」と「乾かす」を何度も繰り返し、少しずつ水分を絞り出しながら、理想の姿へと鍛え上げられていきます。
- 摘採(茶摘み):お茶の木(チャノキ)から新芽を摘み取る作業のこと。
- 蒸熱(じょうねつ): 摘採した生葉を蒸気で蒸し、酸化酵素の働きを止める。お茶の品質を左右する最初の重要な工程。
- 冷却(れいきゃく): 蒸した茶葉をすばやく冷まし、余分な水分を取り除く。
- 葉打ち(はうち):蒸した後の熱く湿った茶葉を攪拌(かくはん)する工程
- 粗揉(そじゅう): 熱風を送りながら、茶葉を揉んで乾燥させる最初の揉み工程。
- 揉捻(じゅうねん): 粗揉を経た茶葉に力を加え、水分をさらに均一化させる。
- 中揉(ちゅうじゅう):茶葉を再び熱風で乾燥させながら、よりをかけて細長く整える。
- 精揉(せいじゅう): 茶葉の形を針のようにまっすぐ美しく整え、乾燥を仕上げる。
- 乾燥(かんそう):← ココです!茶葉の水分量が5%程度になるまでしっかりと乾燥させ、貯蔵性を高める。
- 荒茶(あらちゃ):お茶の一次加工品の完成!!
粗揉(そじゅう):揉みながら乾かす最初のステップ
蒸されて熱々になった茶葉が、最初に入門するのが「粗揉機(そじゅうき)」。
ここでは、熱風を浴びながら、巨大な手で優しくマッサージされるように攪拌(かくはん)されます。
目的は、茶葉の表面についた水分を飛ばしつつ、内部の水分を均一にすること。



デリケートな茶葉を傷つけないよう、優しく、しかし確実に。美しい煎茶への第一歩です。
中揉(ちゅうじゅう):茶葉を整え、さらに乾燥
粗揉でウォーミングアップを終えた茶葉は、次に「中揉機(ちゅうじゅうき)」へ。
ここでは、少しだけ圧力を加えながら、さらに水分を絞り出していきます。
圧力をかけることで、茶葉の芯にある水分が表面にじわっと浮き出てきて、効率的に乾燥が進みます。



この段階で、茶葉は徐々に撚(よ)れて、少しずつ細長い形状へと変化していきます。ゴールはまだ先です!
精揉(せいじゅう):美しい針状の形へ
いよいよ揉みのクライマックス、「精揉(せいじゅう)」の出番です。
「精揉機」の中で、職人が体重をかけるように圧力を加えながら、茶葉を一本一本まっすぐに伸ばすように丁寧に揉み込んでいきます。
この工程を経ることで、茶葉はピンと伸びた美しい針のような形状に。



見た目が美しくなるのはもちろん、お茶を淹れたときに成分が均一に抽出しやすくなるという、機能的な意味も込められています。
まさに、用の美を追求する職人技です。
最終乾燥:荒茶の完成へ
数々の試練を乗り越えた茶葉は、最後に「乾燥機」で最終仕上げ。
約85℃の熱風で30分ほどじっくり乾燥させ、水分量を約5%まで調整します。



これでようやく、長期保存が可能な「荒茶」の完成です!この荒茶が全国の製茶問屋やお茶屋さんに届けられ、次なるステージ「火入れ」を待つのです。
【仕上げ編】
火入れの探求 – 香りと味を創り出す職人技
荒茶は、いわば「お茶の原石」。この原石を磨き上げ、輝く宝石(製品)へと昇華させるのが「火入れ」です。



お店の看板となる味と香りを創り出す、まさに職人技の真骨頂と言えるこの記事のテーマ。
火入れの目的:青臭さを取り除き、奥深い香りを引き出す
火入れの主な目的は、荒茶に残る青臭さや、貯蔵中に発生することがある雑味を取り除くこと。
そして何より、熱を加えることで「火入れ香」という香ばしい香りを引き出すことにあります。
この火入れ香こそが、お茶に奥深さと安らぎを与えてくれる重要な要素。ほうじ茶ほど強くはありませんが、この絶妙な香ばしさが、お茶の個性を決定づけるのです。
火入れ機の種類と特徴
遠赤外線とマイクロ波
現代の火入れでは、主に熱の伝え方が異なる機械が使われています。
それぞれの特徴を理解し、巧みに使い分けるのがプロの技です。
| 火入れ機の種類 | 特徴 | 仕上がりのイメージ |
| 遠赤外線火入れ機 | 炭火のように、茶葉の芯までじっくり均一に熱を通す。 | 甘く、まろやかで奥深い香りを引き出しやすい。 |
| マイクロ波火入れ機 | 電子レンジのように、茶葉の内部から急速に加熱する。 | 爽やかでフレッシュな香りを際立たせやすい。 |



これらを単独で使ったり、組み合わせたりすることで、香りのバリエーションは無限に広がります。
火入れの強弱がもたらす香味の変化
火入れは、その「強弱」によってお茶のキャラクターを自在に操ります。
弱火(浅煎り)
茶葉本来のフレッシュな香りと、アミノ酸由来の豊かな旨味を活かした仕上がり。
新茶など、素材のポテンシャルをストレートに楽しみたいお茶に用いられます。
強火(深煎り)
高めの温度でじっくり加熱し、香ばしい「火入れ香」を強調した仕上がり。
渋み成分のカテキンが熱で変化し、渋みが和らぎ後味がすっきりする傾向があります。
ここで紹介した浅煎り、深煎りは、別記事で紹介している浅蒸し、深蒸しとは違います。
混乱しやすいですが、『浅蒸し、深蒸し』=茶葉の蒸し加減『蒸熱(最初の加熱)』の事。
『浅煎り、深煎り』=『乾燥(最後の火入れ)』と今回の記事の事。



同じ荒茶でも、火入れのさじ加減ひとつで全く別のお茶が生まれるのです。これぞ、まさにお茶の錬金術!
乾燥を科学する
茶葉の中で何が起きているのか
「乾燥」や「火入れ」の最中、茶葉の内部では一体何が起きているのでしょうか?



熱エネルギーによって引き起こされる、ミクロな世界の化学変化を少しだけ覗いてみましょう。
香気成分の生成:「火入れ香」の正体
あの心地よい「火入れ香」の正体は、主に「ピラジン類」や「ピロール類」といった香気成分です。
これらは、茶葉に含まれるアミノ酸(旨味)と糖が、加熱によって化学反応(メイラード反応)を起こすことで生まれます。



これは、パンを焼くと香ばしい匂いがするのと同じ原理。火入れの温度が高いほど、これらの成分が多く生成され、香ばしさがグッと増していくんだぞい。
うま味と渋みの変化:アミノ酸とカテキンの関係
お茶の味の主役である、うま味の「アミノ酸」と渋みの「カテキン」。火入れは、この二大巨頭の関係性にも大きな影響を与えます。
- アミノ酸(うま味): 火入れの熱で一部が分解され、前述の香気成分の材料になります。
そのため、火入れを強くしすぎると、うま味が減ってしまうことも。 - カテキン(渋み): 熱によって構造が変化し、渋みが穏やかになります。
また、一部は苦味が少なく、うま味を感じさせる別の物質に変わることも知られています。



つまり火入れとは、うま味、渋み、香りの成分を熱で巧みにコントロールし、絶妙なハーモニーを奏でる「味の調律」作業ってことです。
AFTERWORD
乾燥を知れば、日本茶選びはもっと楽しくなる
日本茶の製造工程における「乾燥」が、単なる水分除去ではなく、お茶の品質を守り、個性を創り出すための極めて重要な工程であることがお分かりいただけたでしょうか。
揉みと乾燥を繰り返す「荒茶」の工程でその姿を整え、最後の「火入れ」という名の魔法によって、唯一無二の香りと味わいが吹き込まれる。
この一連の流れを知ることで、目の前の一杯のお茶が、より一層愛おしく感じられるはずです。
今度お茶を選ぶときは、ぜひ「火入れ」の具合に注目してみてください。
「このお茶は浅火仕上げで素材の味を活かしているな」「こっちは深火で香ばしさが特徴的だ」など、自分なりの視点でテイスティングすれば、お茶選びはもっと楽しく、奥深いものになります。
あなたも乾燥の奥深き世界に足を踏み入れ、自分だけのお気に入りの一杯を見つける旅に出かけましょう!



あと案件じゃないですけど、お茶の製造機械どんなんか知りたい方は、カワサキ機工株式会社さんのURLリンクこちらに勝手ながら乗せておくので見てみると面白いと思うので乗せておきます。(外部リンク)許可下りればの話ですが(笑)
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