「蒸熱(じょうねつ)」とは
日本茶の魂を決める最初の数秒
お茶好きの皆さん、こんにちは!普段何気なく飲んでいるその一杯の日本茶。
その味や香りが、実は日本茶の製造工程における「最初の数秒」で運命づけられているとしたら…信じられますか?
その運命の鍵を握るのが、今回深掘りする「蒸熱(じょうねつ)」という工程です。
日本茶アドバイザーパトラッシュ♂畑で摘まれたばかりの茶葉は、言わばポテンシャルを秘めた原石。
この蒸熱という魔法にかけられることで、私たちが愛する「日本茶」へと劇的に生まれ変わります。
蒸熱とは、摘みたての新鮮な生葉を高温の蒸気で一気に蒸すこと。
このわずか数十秒から数分の間に、茶葉の未来、つまり味、香り、水色(すいしょく)のすべてが決まる!!
と言っても過言ではありません。
製造工程における蒸熱のタイミング
- 摘採(茶摘み):お茶の木(チャノキ)から新芽を摘み取る作業のこと。
- 蒸熱(じょうねつ): ← ココです!摘採した生葉を蒸気で蒸し、酸化酵素の働きを止める。お茶の品質を左右する最初の重要な工程。
- 冷却(れいきゃく): 蒸した茶葉をすばやく冷まし、余分な水分を取り除く。
- 葉打ち(はうち):蒸した後の熱く湿った茶葉を攪拌(かくはん)する工程
- 粗揉(そじゅう): 熱風を送りながら、茶葉を揉んで乾燥させる最初の揉み工程。
- 揉捻(じゅうねん): 粗揉を経た茶葉に力を加え、水分をさらに均一化させる。
- 中揉(ちゅうじゅう):茶葉を再び熱風で乾燥させながら、よりをかけて細長く整える。
- 精揉(せいじゅう): 茶葉の形を針のようにまっすぐ美しく整え、乾燥を仕上げる。
- 乾燥(かんそう):茶葉の水分量が5%程度になるまでしっかりと乾燥させ、貯蔵性を高める。
- 荒茶(あらちゃ):お茶の一次加工品の完成!!
蒸熱の目的:なぜ「蒸す」のか?
「なぜわざわざ蒸すの?炒めたり茹でたりじゃダメなの?」そんな素朴な疑問が聞こえてきそうですね。
日本茶が「蒸し」を選ぶのには、美味しさを最大限に引き出すための、ちゃんとした理由があるのです。
酸化酵素を止める「殺青(さっせい)」
摘みたての茶葉は、リンゴの切り口が空気に触れて茶色くなるのと同じように、放っておくと酸化発酵が進んでしまいます。
これは茶葉に含まれる「酸化酵素」の仕業。
日本茶の生命線であるフレッシュな緑色と爽やかな香りを守るには、この酸化酵素の活動をいかに素早く、そして完全にくい止めるかが勝負。
そこで最も効率的なのが、高温の蒸気で一気に茶葉の芯まで熱を通す「蒸熱」です。
この殺青によって、茶葉は紅茶やウーロン茶への道を閉ざし、緑茶としての道を歩み始めます。
青臭さを取り除き、豊かな香りを引き出す
摘みたての生葉には、独特の「青臭さ」があります。
蒸熱の工程では、この青臭さの原因となる成分を揮発させ、和らげる効果があります。
そして、代わりに茶葉が本来持っている「覆い香(おおいか)」と呼ばれる、甘く爽やかな香りを引き出してくれるのです。



まさに、蒸気のマジック!青臭い葉っぱが、うっとりするような香りを放つ「お茶」へと変身する、感動の瞬間です。
蒸し時間がお茶の個性を分ける!
浅蒸し・普通蒸し・深蒸し
蒸熱の面白さは、その「蒸し時間」によってお茶の個性が万華鏡のように変わるところにあります。
まるでパスタの茹で時間で食感が変わるように、わずか数十秒の違いが、日本茶の味わいを大きく左右するのです。
| 種類 | 蒸し時間(目安) | 茶葉の形状 | 水色(お茶の色) | 味・香りの特徴 |
| 浅蒸し茶 | 20秒~40秒 | 針のように細く美しい | 透明感のある黄金色 | 爽やかな香りとキレのある渋み |
| 普通蒸し茶 | 40秒~60秒 | 浅蒸しと深蒸しの中間 | 鮮やかな緑色 | 香り、旨味、渋みのバランスが良い |
| 深蒸し茶 | 60秒~180秒 | 細かく、粉が多い | 濃く深い緑色 | 濃厚な旨味とまろやかな口当たり |
浅蒸し茶:爽やかな香りと繊細な味わい
蒸し時間を短く仕上げたのが浅蒸し茶です。茶葉の組織があまり壊れないため、形状は針のように細く美しいまま保たれます。
- 見た目: 凛とした針のような形状。
- 水色: 透明感のある美しい黄金色(山吹色)。
- 味わい: 茶葉本来のフレッシュで爽やかな香りと、キリッとした心地よい渋みが楽しめます。



その繊細な香味をじっくりと味わいたい、まさに「粋」という言葉が似合うお茶です。
普通蒸し茶:バランスの取れた王道
現在、煎茶のスタンダードとして最も多く作られているのが普通蒸し茶です。
浅蒸しの「香り高さ」と深蒸しの「コク」のいいとこ取りをした、バランスの良さが最大の魅力です。
- 見た目: 浅蒸し茶よりは少し細かくなるが、茶葉の形は保たれている。
- 水色: 澄んだ美しい緑色。
- 味わい: 香り、旨味、渋みの調和がとれており、誰にでも好まれる王道の味わい。



日本茶の美味しさの基準とも言える存在で、まずこれを試せば間違いありません。
深蒸し茶:濃厚な旨味とまろやかな口当たり
普通蒸しの2倍以上の時間をかけてじっくりと蒸し上げたのが深蒸し茶です。
長く蒸すことで茶葉の組織がもろくなり、お茶を淹れた際にカテキンやテアニンといった成分がたっぷりと溶け出します。
- 見た目: 茶葉が細かくなり、粉が多く含まれる。
- 水色: 濁りのある濃厚で鮮やかな緑色。
- 味わい: 渋みや苦みが抑えられ、濃厚な旨味とコク、まろやかな口当たりが特徴。



湯呑の底に沈殿する細かい茶葉は、美味しさと健康成分の証。ぜひ最後まで味わってください。
特蒸し・極蒸しという更なる深みへ
「深蒸しでは物足りない!」という、探求心あふれるお茶オタクのために存在する(?)のが、特蒸し茶や極蒸し茶。
これらは深蒸し茶よりもさらに長い時間をかけて蒸したお茶です。
蒸熱(じょうねつ)の科学
茶葉の中で何が起きているのか?
少し真面目な話、蒸熱のプロセスを科学の目で覗いてみましょう。蒸気の熱が茶葉に加わると、内部では劇的な化学変化が起こっています。
蒸熱とは、単に酸化を止めるだけでなく、茶葉のポテンシャルを最大限に引き出すための、緻密に計算された化学反応のステージと言えるでしょう。
蒸すだけじゃない!多様な殺青方法
日本茶の製造工程において殺青は「蒸し」が主流ですが、世界に目を向け、そして日本国内でも、蒸す以外の方法が存在します。
釜炒り製:香ばしさが際立つ伝統製法
熱した釜で茶葉を直接炒って殺青する方法が釜炒り製です。
中国緑茶の多くで用いられる製法で、日本では九州の一部地域(佐賀県の嬉野茶や宮崎県の釜炒り茶など)でこの伝統が受け継がれています。
- 特徴: 釜で炒ることで生まれる「釜香(かまか)」と呼ばれる、独特の香ばしい香り。
- 味わい: すっきりとしていて、水色は美しい黄金色。
- 形状: 勾玉のようにくるんと丸まった形が多い。
蒸し製の日本茶とは全く異なる個性を持つ、もう一つの日本の誇るべきお茶です。
蒸し製玉緑茶(ぐり茶)との違い
釜炒り茶と同じく、茶葉が丸まった形状の玉緑茶(たまりょくちゃ)、通称「ぐり茶」がありますが、これには「釜炒り製」と「蒸し製」の2種類が存在するため注意が必要です。



見た目が似ていても、殺青方法が違うだけで香りが全く異なるというのも、お茶選びの面白いポイントですね。
紅茶やウーロン茶はなぜ蒸さないのか?
紅茶やウーロン茶はなぜ蒸さない(殺青しない)のか?それは、これらのお茶が目指すゴールが緑茶とは全く違うからです。
殺青を「するか」「しないか」「どのタイミングでするか」が、緑茶、ウーロン茶、紅茶というお茶の個性を決定づけているのです。
AFTERWORD
蒸熱を知れば、日本茶はもっと面白い
たった数十秒の「蒸熱」という工程が、茶葉の個性、香り、味わいを決定づける、まさに日本茶の製造工程における魂とも言える時間であることがお分かりいただけたでしょうか。
次回お茶を淹れるとき、ぜひパッケージの表示を見てみてください。
「深蒸し茶」と書かれていれば「だからこんなに色が濃くて甘いのかな」、「浅蒸し茶」なら「この爽やかな香りがたまらないな」と、今までとは違った視点でお茶を楽しめるはずです。
蒸熱の世界は、知れば知るほど奥深いもの。あなたも今日から「蒸し加減」を語れる、立派なお茶オタクの仲間入りです!



あと案件じゃないですけど、お茶の製造機械どんなんか知りたい方は、カワサキ機工株式会社さんのURLリンクこちらに勝手ながら乗せておくので見てみると面白いと思うので乗せておきます。(外部リンク)許可下りればの話ですが(笑)
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