【烝熱(じょうねつ)】:茶葉の個性を引き出す日本茶の核心工程!

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目次

「蒸熱(じょうねつ)」とは

日本茶の魂を決める最初の数秒

お茶好きの皆さん、こんにちは!普段何気なく飲んでいるその一杯の日本茶。

その味や香りが、実は日本茶の製造工程における「最初の数秒」で運命づけられているとしたら…信じられますか?

その運命の鍵を握るのが、今回深掘りする「蒸熱(じょうねつ)」という工程です。

日本茶アドバイザーパトラッシュ♂

畑で摘まれたばかりの茶葉は、言わばポテンシャルを秘めた原石。
この蒸熱という魔法にかけられることで、私たちが愛する「日本茶」へと劇的に生まれ変わります。

蒸熱とは、摘みたての新鮮な生葉を高温の蒸気で一気に蒸すこと。
このわずか数十秒から数分の間に、茶葉の未来、つまり味、香り、水色(すいしょく)のすべてが決まる!!

と言っても過言ではありません。

製造工程における蒸熱のタイミング

製造工程ステップ

蒸熱の目的:なぜ「蒸す」のか?

「なぜわざわざ蒸すの?炒めたり茹でたりじゃダメなの?」そんな素朴な疑問が聞こえてきそうですね。

日本茶が「蒸し」を選ぶのには、美味しさを最大限に引き出すための、ちゃんとした理由があるのです。

酸化酵素を止める「殺青(さっせい)

摘みたての茶葉は、リンゴの切り口が空気に触れて茶色くなるのと同じように、放っておくと酸化発酵が進んでしまいます。

これは茶葉に含まれる「酸化酵素」の仕業。

この酵素の働きを熱でピタッと止める工程こそが殺青(さっせい)です。

日本茶の生命線であるフレッシュな緑色と爽やかな香りを守るには、この酸化酵素の活動をいかに素早く、そして完全にくい止めるかが勝負。

そこで最も効率的なのが、高温の蒸気で一気に茶葉の芯まで熱を通す「蒸熱」です。

この殺青によって、茶葉は紅茶やウーロン茶への道を閉ざし、緑茶としての道を歩み始めます。

青臭さを取り除き、豊かな香りを引き出す

摘みたての生葉には、独特の「青臭さ」があります。

蒸熱の工程では、この青臭さの原因となる成分を揮発させ、和らげる効果があります。

そして、代わりに茶葉が本来持っている「覆い香(おおいか)」と呼ばれる、甘く爽やかな香りを引き出してくれるのです。

日本茶アドバイザーパトラッシュ♂

まさに、蒸気のマジック!青臭い葉っぱが、うっとりするような香りを放つ「お茶」へと変身する、感動の瞬間です。

蒸し時間がお茶の個性を分ける!

浅蒸し・普通蒸し・深蒸し

蒸熱の面白さは、その「蒸し時間」によってお茶の個性が万華鏡のように変わるところにあります。

まるでパスタの茹で時間で食感が変わるように、わずか数十秒の違いが、日本茶の味わいを大きく左右するのです。

種類蒸し時間(目安)茶葉の形状水色(お茶の色)味・香りの特徴
浅蒸し茶20秒~40秒針のように細く美しい透明感のある黄金色爽やかな香りとキレのある渋み
普通蒸し茶40秒~60秒浅蒸しと深蒸しの中間鮮やかな緑色香り、旨味、渋みのバランスが良い
深蒸し茶60秒~180秒細かく、粉が多い濃く深い緑色濃厚な旨味とまろやかな口当たり

浅蒸し茶:爽やかな香りと繊細な味わい

蒸し時間を短く仕上げたのが浅蒸し茶です。茶葉の組織があまり壊れないため、形状は針のように細く美しいまま保たれます。

浅蒸し茶の特徴
  • 見た目: 凛とした針のような形状。
  • 水色: 透明感のある美しい黄金色(山吹色)。
  • 味わい: 茶葉本来のフレッシュで爽やかな香りと、キリッとした心地よい渋みが楽しめます。

おすすめな人: お茶本来の香りを重視する方、すっきりとした後味が好きな方。

日本茶アドバイザーパトラッシュ♂

その繊細な香味をじっくりと味わいたい、まさに「粋」という言葉が似合うお茶です。

普通蒸し茶:バランスの取れた王道

現在、煎茶のスタンダードとして最も多く作られているのが普通蒸し茶です。

浅蒸しの「香り高さ」と深蒸しの「コク」のいいとこ取りをした、バランスの良さが最大の魅力です。

普通蒸し煎茶の特徴
  • 見た目: 浅蒸し茶よりは少し細かくなるが、茶葉の形は保たれている。
  • 水色: 澄んだ美しい緑色。
  • 味わい: 香り、旨味、渋みの調和がとれており、誰にでも好まれる王道の味わい。

おすすめな人: どのお茶にしようか迷った時、ギフトで贈る時。

日本茶アドバイザーパトラッシュ♂

日本茶の美味しさの基準とも言える存在で、まずこれを試せば間違いありません。

深蒸し茶:濃厚な旨味とまろやかな口当たり

普通蒸しの2倍以上の時間をかけてじっくりと蒸し上げたのが深蒸し茶です。

長く蒸すことで茶葉の組織がもろくなり、お茶を淹れた際にカテキンやテアニンといった成分がたっぷりと溶け出します。

深蒸し茶の特徴
  • 見た目: 茶葉が細かくなり、粉が多く含まれる。
  • 水色: 濁りのある濃厚で鮮やかな緑色。
  • 味わい: 渋みや苦みが抑えられ、濃厚な旨味とコク、まろやかな口当たりが特徴。

おすすめな人: 濃厚で甘みのあるお茶が好きな方、健康成分を効率よく摂りたい方。

日本茶アドバイザーパトラッシュ♂

湯呑の底に沈殿する細かい茶葉は、美味しさと健康成分の証。ぜひ最後まで味わってください。

特蒸し・極蒸しという更なる深みへ

「深蒸しでは物足りない!」という、探求心あふれるお茶オタクのために存在する(?)のが、特蒸し茶極蒸し茶

これらは深蒸し茶よりもさらに長い時間をかけて蒸したお茶です。

茶葉は粉末に近く、水色はまるで抹茶のよう。味わいは非常に濃厚で、とろりとした甘みが口いっぱいに広がります。見かけたらぜひ挑戦を。あなたの知らない日本茶の世界が待っているはずです。

蒸熱(じょうねつ)の科学

茶葉の中で何が起きているのか?

少し真面目な話、蒸熱のプロセスを科学の目で覗いてみましょう。蒸気の熱が茶葉に加わると、内部では劇的な化学変化が起こっています。

3つの化学反応
  • 酵素の失活: まず、ポリフェノールオキシダーゼなどの酸化酵素が熱によって働きを失います(失活)。これにより、緑茶特有の色と香りが保たれるのです。
  • 細胞壁の破壊: 高温の蒸気は、茶葉の細胞壁を破壊します。
    特に深蒸し茶ではこの破壊が進むため、お茶を淹れた際に旨味成分(テアニン)や渋み成分(カテキン)などが溶け出しやすくなります。
  • 香気成分の変化: 生葉の青臭さの原因物質が揮発・減少し、代わりに熱によってピラジン類などの香ばしい香りや、リナロールなどの花のような甘い香りが生まれます。
    これらが合わさって、日本茶ならではの複雑で豊かな香りを形成するのです。

蒸熱とは、単に酸化を止めるだけでなく、茶葉のポテンシャルを最大限に引き出すための、緻密に計算された化学反応のステージと言えるでしょう。

蒸すだけじゃない!多様な殺青方法

日本茶の製造工程において殺青は「蒸し」が主流ですが、世界に目を向け、そして日本国内でも、蒸す以外の方法が存在します。

釜炒り製:香ばしさが際立つ伝統製法

熱した釜で茶葉を直接炒って殺青する方法が釜炒り製です。

中国緑茶の多くで用いられる製法で、日本では九州の一部地域(佐賀県の嬉野茶や宮崎県の釜炒り茶など)でこの伝統が受け継がれています。

釜炒り製の特徴
  • 特徴: 釜で炒ることで生まれる「釜香(かまか)」と呼ばれる、独特の香ばしい香り。
  • 味わい: すっきりとしていて、水色は美しい黄金色。
  • 形状: 勾玉のようにくるんと丸まった形が多い。

蒸し製の日本茶とは全く異なる個性を持つ、もう一つの日本の誇るべきお茶です。

蒸し製玉緑茶(ぐり茶)との違い

釜炒り茶と同じく、茶葉が丸まった形状の玉緑茶(たまりょくちゃ)、通称「ぐり茶」がありますが、これには「釜炒り製」と「蒸し製」の2種類が存在するため注意が必要です。

釜炒りと蒸しの違い
  • 釜炒り製玉緑茶 殺青を釜で炒って行う。香ばしい釜香が特徴。
  • 蒸し製玉緑茶 殺青は蒸して行う。煎茶の製造工程の最後にある、茶葉の形をまっすぐに整える「精揉(せいじゅう)」を省くため、自然と丸まった形になる。味わいは煎茶に近い。
日本茶アドバイザーパトラッシュ♂

見た目が似ていても、殺青方法が違うだけで香りが全く異なるというのも、お茶選びの面白いポイントですね。

紅茶やウーロン茶はなぜ蒸さないのか?

紅茶やウーロン茶はなぜ蒸さない(殺青しない)のか?それは、これらのお茶が目指すゴールが緑茶とは全く違うからです。

紅茶とウーロン茶の特徴
  • 紅茶(発酵茶): 殺青をせず、酸化酵素を最大限に活用して完全に発酵させます。これにより、特有の赤い水色と華やかな香りを生み出します。
  • ウーロン茶半発酵茶): 発酵を途中で止めるお茶。ある程度発酵を進めてから加熱処理(殺青)をすることで、緑茶の爽やかさと紅茶の華やかさを併せ持つ、花や果実のような芳醇な香りを引き出します。

殺青を「するか」「しないか」「どのタイミングでするか」が、緑茶、ウーロン茶、紅茶というお茶の個性を決定づけているのです。

AFTERWORD

蒸熱を知れば、日本茶はもっと面白い

たった数十秒の「蒸熱」という工程が、茶葉の個性、香り、味わいを決定づける、まさに日本茶の製造工程における魂とも言える時間であることがお分かりいただけたでしょうか。

まとめ
  • 蒸熱は、日本茶の緑色を保ち(殺青)、豊かな香りを引き出す重要な工程。
  • 蒸し時間の長さが「浅蒸し」「普通蒸し」「深蒸し」といった個性を生み出す。
  • 深蒸し茶は成分が溶け出しやすく、濃厚な旨味とまろやかさが特徴。
  • 「釜炒り」という炒って殺青する方法もあり、香ばしい香りが魅力。

次回お茶を淹れるとき、ぜひパッケージの表示を見てみてください。

「深蒸し茶」と書かれていれば「だからこんなに色が濃くて甘いのかな」、「浅蒸し茶」なら「この爽やかな香りがたまらないな」と、今までとは違った視点でお茶を楽しめるはずです。

蒸熱の世界は、知れば知るほど奥深いもの。あなたも今日から「蒸し加減」を語れる、立派なお茶オタクの仲間入りです!

日本茶アドバイザーパトラッシュ♂

あと案件じゃないですけど、お茶の製造機械どんなんか知りたい方は、カワサキ機工株式会社さんのURLリンクこちらに勝手ながら乗せておくので見てみると面白いと思うので乗せておきます。(外部リンク)許可下りればの話ですが(笑)

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