【葉打ち(はうち)】:揉まれる前の静寂、茶葉が語る香りの序章

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そもそも「葉打ち」とは?

お茶好きの皆さん、こんにちは!普段何気なく飲んでいるその一杯のお茶、実はとんでもないドラマを経てあなたの元へ届いていることをご存知でしょうか?

今回は、数あるお茶の製造工程の中でも、品質を左右する超重要工程、「葉打ち(はうち)」について、掘り下げていきます。

葉打ち」と聞くと、なんだか葉っぱをバシバシ叩いているような、ちょっと物騒な光景を想像しませんか?

実は、あながち間違いではありません。

葉打ちとは、蒸した後の熱く湿った茶葉を、熱風を送りながらリズミカルに叩き、攪拌(かくはん)する工程のこと。

日本茶アドバイザーパトラッシュ♂

まるでお風呂上がりの濡れた髪をドライヤーで乾かしながら、手でワシャワシャとほぐすイメージです。この一手間が、後の工程をスムーズに進め、お茶の最終的なクオリティを決定づけます。

製造工程ではどこで葉打ちをするのか?

製造工程ステップ

粗揉(そじゅう)工程との違い

ここでマニアの皆さんが「おや?」と思うのが、「粗揉(そじゅう)と何が違うの?」という点でしょう。

素晴らしい着眼点です!

簡単に言うと、粗揉は茶葉を「揉みながら乾かす」一連の作業全体を指し、葉打ちはその粗揉工程の序盤戦にあたります。

日本茶アドバイザーパトラッシュ♂

いわば、壮大なドラマの「第1章:波乱の幕開け」が葉打ちなのです。

工程役割例えるなら?
葉打ち蒸した葉を叩き、水分を飛ばし、柔らかくする(粗揉の初期段階)。ライブのオープニングアクト。観客(茶葉)の心をほぐし、会場を温める。
粗揉葉を揉みながら、さらに水分を均一に減らしていく工程全体。ライブ本編。オープニングからエンディングまで、観客を魅了し続ける。

つまり、葉打ちは粗揉という大きなドラマの幕開けを告げる重要なパート。

この工程がなければ、その後の華麗な「揉み」の技術も活きてきません。

葉打ちの主な目的

では、なぜわざわざお茶の製造過程で葉っぱを叩くのでしょうか?

そこには、職人の計算し尽くされた3つの目的があります。

3つの目的
  • 均一な乾燥で品質のムラを防ぐ
  • 茶葉を柔らかくし、成分を出しやすくする
  • 茶葉全体の温度を均一にする

均一な乾燥で品質のムラを防ぐ

蒸したての茶葉は水分が不均一です。

これを放置すると乾燥ムラができ、品質がガクッと落ちてしまいます。

葉打ちで葉を舞い上がらせて熱風に当てることで、表面の水分を効率よく飛ばし、乾燥を促します

茶葉を柔らかくし、成分を出しやすくする

蒸されただけの葉は、まだ少し硬さが残っています。

葉打ちで適度な打撃を与えることで、葉が柔らかくなり、後の「揉み」の工程で旨味や渋みといった成分が出やすい状態になります。

日本茶アドバイザーパトラッシュ♂

まさに、マッサージで体をほぐすのと同じ原理です。

茶葉全体の温度を均一にする

    葉の塊をほぐし、全体の温度を均一に保ちます。

これにより、意図しない発酵などを防ぎ、品質を安定させることができます。

これらの目的を達成することで、初めて高品質なお茶づくりの土台が完成するのです。

葉打ちがお茶の品質に与える影響

地味に見える葉打ちですが、お茶の「味わい」「香り」「水色」という三大要素に絶大な影響を与えます。

葉打ちの良し悪しが、あなたの一杯を天国にも地獄にも変える可能性があるのです(少し大げさですが、それくらい重要です!)。

味わいへの影響

葉打ちが不十分で水分が残りすぎると、茶葉が蒸れたような不快な味(蒸れ臭)の原因になります。

逆に、叩きすぎたり熱風が強すぎたりすると、葉が傷つき、渋みや苦味といった雑味が出てしまいます。

成功した葉打ち:茶葉の細胞が適度に壊れ、後の工程で旨味成分であるアミノ酸(テアニンなど)やカテキンが溶け出しやすい状態になる。→ コクと旨味のポテンシャルが最大に!

失敗した葉打ち:葉が傷つきすぎたり、乾燥が不十分だったりする。→ 雑味や不快な味の原因に…

まさに葉打ちの段階で、お茶の「コク」や「旨味」の方向性が決まってくるのです。

香りへの影響

お茶の爽やかな香りも、葉打ちによって大きく左右されます。

この工程で、生葉特有の青臭さが取り除かれ、煎茶らしい清々しい香り(これを「清香(せいか)」と呼びます)が引き出され始めます。

葉打ちが適切に行われると、茶葉の温度が巧みにコントロールされ、繊細な香りの成分が熱によって損なわれるのを防ぎます。

まるで、香水のトップノートを丁寧に引き出す調香師のような、繊細な作業なのです。

水色(すいしょく)への影響

お茶を淹れたときの色、すなわち「水色(すいしょく)」も、葉打ちと無関係ではありません。

葉打ちによって葉の組織が適度に壊れることで、葉緑素(クロロフィル)などの色素成分がお湯に溶け出しやすくなります。

上手な葉打ち:澄んだ美しい緑色の水色になる。

強すぎる葉打ち:葉が細かくなりすぎ、水色が濁ってしまう原因になる。

一杯のお茶の見た目の美しさも、この地道な葉打ちの工程に支えられています。

【マニア向け】もっと知りたい!葉打ちの世界

さて、ここからはさらにディープな葉打ちの世界へご案内します。

「葉打ちについてなら、一晩語れるぜ」という沼の住人を目指す方は、ぜひお付き合いください。

葉打機の構造と種類

葉打ちを行う機械を「葉打機(はうちき)」または「粗揉機(そじゅうき)」と呼びます。

その構造は、一見すると巨大なドラム洗濯機のよう。

機械の構造
  • 基本構造:内部に熱風を送り込む管があり、ドラムが回転しながら、中に設置された「揉み手」と呼ばれる突起が茶葉を掻き上げ、落下させます。
    この「掻き上げては落とす」という動作が、葉を叩き、攪拌(かくはん)する役割を果たしています。
  • 最新の葉打機:温度センサーや水分センサーを備え、茶葉の状態をリアルタイムで監視しながら、風量や回転数を自動で制御するハイテクなものも登場しています。

しかし、どんなに機械が進化しても、その日の気温や湿度、茶葉の状態によって設定を微調整する必要があり、最終的には職人の経験と勘がものを言います

職人技が光る「しとり」と「茶温」の管理

葉打ち工程における職人技の真骨頂が、「しとり」と「茶温」の管理です。

しとり(撓)

    「しとり」とは、茶葉が持つ弾力性や粘り気のこと。

職人は機械に手を入れ、茶葉を握ってその感触を確かめます。

ベタつかず、かつ、しっとりとした適度な「しとり」が生まれているかどうかが、その後の品質を左右します。

日本茶アドバイザーパトラッシュ♂

この感覚は、長年の経験でしか身につかない「手の記憶」であり、まさに職人芸です。

茶温(ちゃおん)

 葉打ち中の茶葉の温度管理も極めて重要です。

一般的に、35℃前後に保つのが良いとされています。

温度が高すぎると品質が劣化し、低すぎると乾燥が進みません。

職人は定期的に茶葉の温度を測り、熱風の温度や量を細かく調整することで、最適な状態を維持し続けます。

この「しとり」と「茶温」という、目に見えない指標を五感で感じ取り、機械を自在に操るのが、熟練の職人です。

蒸し加減と葉打ちの関係性

お茶の製造工程の最初に行われる「蒸し」の工程も、葉打ちに大きく影響します。

蒸し加減によって茶葉の状態が全く異なるため、葉打ちの方法も変える必要があるのです。

蒸し加減茶葉の特徴葉打ちでの注意点
浅蒸し葉の形状が保たれやすいが、硬め。葉が硬いため、少し強めに葉打ちを行い、しっかり柔らかくする必要がある。
深蒸し葉が柔らかく、崩れやすい。葉がもろいため、強い葉打ちはNG。優しく攪拌し、葉が細かくなりすぎないよう細心の注意を払う。

このように、前の工程である「蒸し」の状態を正確に把握し、それに合わせて葉打ちの方法をアジャストしていく柔軟性が求められます。

お茶の製造は、すべての工程が密接に連携したチームプレーですね。

AFTERWORD

一杯のお茶に込められた葉打ちの技

今回は、お茶の製造における「葉打ち」という、少々マニアックながらも非常に重要な工程にスポットライトを当ててみました。

一見地味なこの作業が、お茶の味わい、香り、水色のすべてを司る土台となっていることがお分かりいただけたでしょうか。

蒸したての茶葉の状態を見極め、「しとり」を感じ、「茶温」を計りながら、最適な一打を繰り出す。

そこには、長年の経験に裏打ちされた職人の技と、お茶への深い愛情が詰まっています。

次に急須でお茶を淹れるとき、ぜひ思い出してみてください。

その一杯の向こう側で、茶葉がリズミカルに舞い、職人が真剣な眼差しで機械を見つめる…そんな「葉打ち」の情景を。

きっと、いつものお茶が、より一層味わい深く感じられるはずです。

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