そもそも碾茶(てんちゃ)とは?抹茶の“もと”になるお茶
抹茶をこよなく愛するあなたへ、突然ですがクイズです。いつも楽しんでいるその美味しい抹茶が、何からできているかご存知ですか?
正解は「碾茶(てんちゃ)」。
そう、碾茶こそが、あのきめ細やかで香り高い抹茶の“すっぴん”状態であり、いわば抹茶の原料そのものなのです。
この碾茶を石臼で丁寧に挽くことで、私たちが知る抹茶へと華麗に変身を遂げます。
しかし、市場に「碾茶」として出回ることは非常に稀。
そのほとんどは抹茶になるために栽培・製造されており、まさに抹茶を支える縁の下の力持ち的存在と言えるでしょう。
この記事では、そんなミステリアスで奥深い碾茶について、その正体から美味しい楽しみ方まで、ユーモアを交えて徹底解説します!

ちなみに私にとってお茶の原点はこの碾茶なので今回は力入れて書いてますwww
碾茶の見た目と味、香りの特徴
碾茶のビジュアルは、おそらく皆さんが「お茶の葉」と聞いてイメージするものとは少し違うはず。
煎茶のように美しく撚られた針状ではなく、まるで青のりやフレークのように、薄く平べったい形をしています。


これは、製造工程で茶葉を「揉む」作業を一切行わないため。
このユニークな形状が、碾茶の大きな特徴の一つです。
そして、その香りは「覆い香(おおいか)」や「炉香(ろか)」と称され、青のりのような香ばしさと、どこか甘く上品な香りが入り混じります。



磯の香りがするから磯香(いそか)って呼ぶ人もいるよ。
味わいは、渋みや苦みが驚くほど少なく、まろやかで力強い旨味と甘みが口いっぱいに広がります。
この極上の味わいは、後ほど詳しく解説する特別な栽培方法「被覆栽培」の賜物なのです。
よくある疑問:「甜茶(てんちゃ)」との違いは?
「てんちゃ」という音の響きから、花粉症シーズンに人気の「甜茶」を連想する方も多いかもしれませんね。
しかし、ご安心(?)ください。この二つは名前が似ているだけの全くの別物です!
- 碾茶(てんちゃ): ツバキ科のチャノキから作られる緑茶の一種。抹茶の原料。
- 甜茶(てんちゃ): 中国が原産のバラ科などの植物から作られるお茶。「甜」が「甘い」を意味する通り、自然な甘みが特徴の健康茶。
花粉症対策のつもりで碾茶をガブ飲みしても、期待する効果は得られませんのでご注意を!
間違えて購入しないよう、漢字の違いをしっかり覚えておきましょう。


碾茶と他のお茶との違いを比較
「碾茶が抹茶の原料なのは分かったけど、玉露や煎茶とは何が違うの?」
その疑問、スッキリ解決させましょう。
他のお茶との違いを比較しながら、碾茶のユニークな立ち位置を明らかにします。


碾茶と抹茶の決定的な違い
碾茶と抹茶の関係は、非常にシンプルです。その決定的な違いは、「葉っぱのままか、粉末か」ただそれだけ。
- 碾茶: 蒸して乾燥させただけの、葉の形が残っている状態。
- 抹茶: 碾茶を石臼などで挽いて、きめ細かいパウダー状にしたもの。
例えるなら、大豆と“きな粉”のような関係性。素材は同じでも、フィニッシュのひと手間で全く別の個性が生まれる、面白い関係なのです。
碾茶と玉露・煎茶の違い
碾茶、玉露、煎茶は、すべて同じチャノキの葉から作られますが、その個性は「栽培方法」と「製造工程」の違いによって生まれます。
- 栽培方法の違い: 高級茶の代名詞である玉露と同じく、碾茶も「被覆栽培(ひふくさいばい)」で育てられます。
収穫前に茶園に覆いをかけて日光を遮ることで、茶葉の旨味成分(テアニン)を増やし、渋み成分(カテキン)の生成を抑えるのです。
一方、煎茶は太陽の光をたっぷり浴びて育つため、爽やかな渋みが特徴となります。 - 製造工程の違い: 碾茶と玉露・煎茶を分ける最大のポイントは、「揉む(揉捻)」という工程の有無です。
玉露や煎茶は、蒸した茶葉を丁寧に揉むことで、成分が出やすいようにし、美しい針状の形に整えます。
しかし、碾茶はこの「揉む」工程を行いません。
揉まずにそのまま乾燥させるからこそ、あの青のりのようなひらひらとしたユニークな形状になるのです。
表で見る違いのまとめ
種類 | 栽培方法 | 製造工程(揉むか) | 形状 | 味・香り |
碾茶 | 被覆栽培 | 揉まない | 平たいフレーク状 | 強い旨味、覆い香、炉香 |
抹茶 | 被覆栽培 | 揉まない(碾茶を粉砕) | 微粉末 | 濃厚な旨味とコク |
玉露 | 被覆栽培(約20日) | 揉む | 細長い針状 | 濃厚な旨味、覆い香 |
煎茶 | 露地栽培 | 揉む | 細長い針状 | 爽やかな香りと程よい渋み |
美味しさの秘密!碾茶の製造工程
碾茶のあの独特な風味は、まるで芸術品を作り上げるかのような、手間ひまかけた製造工程に隠されています。
美味しさの秘密を、工程ごとに覗いてみましょう。
旨味を引き出す「被覆栽培」
美味しい碾茶作りの物語は、茶畑から始まります。
新芽が芽吹き始めると、茶園全体をヨシズやワラ、あるいは黒い化学繊維(寒冷紗)で覆い、日光をシャットアウト。
この「被覆栽培」こそが、旨味の源泉です。
日光を制限された茶葉は、光合成を抑える代わりに、旨味や甘みの元となるアミノ酸「テアニン」を葉の中にたっぷりと蓄えます。
渋み成分への変化が抑えられるため、苦みが少なくまろやかな味わいになるのです。この過保護ともいえる環境が、碾茶の極上の旨味を育みます。
蒸熱と冷却
摘み取られた新芽は、時間との勝負。酸化酵素の働きを止めるため、すぐに高温の蒸気で一気に蒸し上げます(蒸熱)。
これにより、緑茶特有の鮮やかな緑色と爽やかな香りが保たれるのです。
その後、蒸された茶葉は巨大な網カゴ(通称:あんどん)の中で、下から送られる風によって宙を舞いながら、素早く冷却されます。
揉まずに乾燥させる「碾茶炉」
ここが碾茶の製造工程におけるハイライト。玉露や煎茶のように葉を揉むことなく、そのまま専用の乾燥炉へと運ばれます。
「碾茶炉」と呼ばれるレンガ造りの巨大な乾燥炉は、内部が何層にも分かれた構造になっています。
茶葉はベルトコンベアに乗ってゆっくりと炉内を進み、約30分かけてじっくりと乾燥されます。
この工程で、碾茶独特の香ばしい「炉香(ろか)」が生まれるのです。
選別から仕上げまで
乾燥を終えたばかりの茶葉は「荒碾茶(あらてんちゃ)」と呼ばれ、まだ葉の軸となる葉脈や硬い茎などが混ざっています。
ここから、風力や静電気を利用した選別機を使い、柔らかく美味しい葉肉の部分だけを丹念に選り分けます。
この選び抜かれたエリートたちこそが、晴れて「碾茶」として完成するのです。
碾茶の美味しい楽しみ方|淹れる・食べる・挽く
そのほとんどが抹茶へと姿を変える碾茶ですが、実は碾茶のままでも絶品。
淹れる、食べる、そして自分で挽く。
一度知ったらやみつきになる、3つの楽しみ方をご紹介します。
淹れて飲む:旨味をじっくり味わう
碾茶は茶葉を揉んでいないため、お湯に成分が溶け出しにくい性質があります。
そのため、玉露を淹れるように、低温のお湯でじっくりと時間をかけて旨味を引き出すのが美味しく淹れる最大のコツです。
お湯出しの淹れ方
急須は小さめの小急須や玉露用の絞り出し急須を使うとより美味しく抽出できます。
碾茶は湯に浮いてしまうので、スプーンなどで軽く押さえつけてあげるのもオススメ。



碾茶は玉露と同じくお茶の栄養分を最高潮に楽しめます。
一度口にすれば疲れた体も元気120%になること間違いなし。
ドラゴンボールの世界で言う仙豆のような存在です。
水出しで楽しむ
水出しにすると、カフェインやカテキンの抽出が抑えられ、テアニンの甘みと旨味がストレートに感じられます。
そのまま食べる:お茶の風味を丸ごといただく


パリパリとした軽やかな食感と、口の中に広がるお茶の風味をダイレクトに楽しめるのが「食べる」という選択肢。
お茶の産地では、古くから親しまれている食べ方です。
- おむすびに: 温かいご飯に碾茶と塩を混ぜて握るだけ。碾茶の香ばしさと塩気が驚くほどマッチします。
- お茶漬けやふりかけに: いつものお茶漬けにトッピングすれば、一気に本格的な味わいに。
- おひたし風に: 淹れた後の茶殻(茶がら)も捨ててはいけません。ポン酢や醤油をかければ、栄養満点の立派な一品「お茶のおひたし」になります。



一番は、ポテチみたいにそのまま食べるのがベストかも、葉だけでも旨味と少しの塩味も感じる正に貴族の食べ物です。
挽いて抹茶にする:挽きたての香りを楽しむ
究極の贅沢は、自分で碾茶を挽いて「挽きたて抹茶」を味わうこと。
石臼がなくても、家庭用の電動お茶ミルがあれば手軽にチャレンジできます。
挽きたての抹茶の香りは、まさに格別。
部屋中に広がるフレッシュで芳醇な香りは、何よりのごちそうです。自分で挽いた抹茶で点てた一服は、きっと忘れられない体験になるでしょう。
碾茶の栄養と期待できる効果
碾茶は、抹茶と同様に茶葉そのものを摂取するため、お湯に溶け出さない栄養素も丸ごと摂れるのが大きなメリットです。
リラックス効果が期待される「テアニン」
碾茶の極上な旨味の正体であるアミノ酸「テアニン」。
このテアニンには、脳の興奮を鎮め、心身をリラックスさせる効果が期待されています。
抹茶を飲むとホッと一息つけるのは、このテアニンの働きのおかげかもしれません。集中したい時や、就寝前のリラックスタイムにもおすすめです。
その他の栄養素
碾茶(抹茶)には、現代人に嬉しい栄養素が他にもたくさん含まれています。
カテキン: 強い抗酸化作用を持つポリフェノールの一種。


ビタミンC・E: 美容や健康維持に欠かせないビタミン類。


食物繊維: お腹の調子を整えるのに役立ちます。


ミネラル: 体の機能を維持するために必要な栄養素。


これらの栄養を効率よく摂取できるのも、茶葉を丸ごといただく碾茶ならではの魅力です。
AFTERWORD
奥深い碾茶の世界を味わってみよう
抹茶の“母”とも言える、知られざるお茶「碾茶」。
その素朴な見た目の裏には、日光を遮るという過保護な栽培方法と、揉まずにじっくり乾燥させるという職人のこだわりが詰まっていました。
碾茶を知ることは、抹茶への愛をさらに深めることに繋がります。
次にあなたが抹茶を口にするとき、その原料である健気で奥深い碾茶の存在に、少しだけ想いを馳せてみてください。
そしてもし、どこかで碾茶に出会う機会があれば、ぜひ手に取ってみてください。
淹れて、食べて、挽いてみる。そのユニークな魅力に、あなたもきっと夢中になるはずです。
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[…] その結果、玉露やかぶせ茶、抹茶(碾茶)のように、渋みが少なく、濃厚なうまみと「覆い香(おおいか)」と呼ばれる独特の香りを持つお茶が生まれるのです。 […]