茶道を始めたばかりの頃、お稽古やお茶会で「立派な蓋(ふた)がついた器」が回ってきて、冷や汗をかいた経験はありませんか?
「どうやって開けるのが正解?」「名前すらわからない…」「食籠…しょくかご?」
そんな疑問をお持ちのあなたへ。
今回は、茶席で主菓子(おもがし)を入れる重要な茶道具「食籠(じきろう)」について解説します。
その正体から扱い方の作法、季節ごとの種類の違いまで、初心者が知っておくべきポイントを網羅しました。
これを読めば、次にあの「蓋付きの器」が回ってきても、焦らずスマートに美味しいお菓子を楽しめるようになりますよ!
茶道の「食籠(じきろう)」とは?
まずは、この少し謎めいた器の正体と、基本的な役割から見ていきましょう。
主菓子を入れる蓋付きの菓子器
食籠とは、一言で言えば「主菓子(おもがし)を入れるための、蓋が付いた器」のことです。
茶道のお菓子には「主菓子」と「干菓子(ひがし)」がありますが、食籠に入れられるのは主に主菓子です。
- 主菓子:練り切り、饅頭、羊羹などの生菓子。濃茶や薄茶をいただく前に食べます。
- 役割:蓋をすることで、お菓子の乾燥を防ぐとともに、蓋を開けた瞬間の「香り」や「見た目の美しさ」というサプライズを演出します。言わば、お茶席における「お菓子の宝箱」ですね。
読み方は「じきろう」!言葉の由来
漢字で「食籠」と書きます。
「しょくかご」と読みたくなりますが、茶道用語としての正解は「じきろう」です。
- 食(じき):食べ物のこと
- 籠(ろう):カゴや器のこと
茶道の世界では、この「じきろう」という響きが定着しています。
日本茶アドバイザーパトラッシュ♂うっかり「しょくかご」と読んで、スーパーの買い物カゴを連想させないよう注意しましょう!私は最初読み間違えましたwww
格の高い「縁高」との役割の違い
茶道には、もう一つ主菓子を入れる有名な器として「縁高(ふちだか)」があります。
初心者の方はこの2つの違いで混乱しがちですが、使い分けは以下の通りです。
| 特徴 | 食籠(じきろう) | 縁高(ふちだか) |
| 形状 | 丸形、多角形などの蓋付きボウル状 | 重箱のような四角い形 |
| 格 | 縁高よりは少しカジュアル | 格が高い(真の菓子器) |
| 主な用途 | 薄茶席、大寄せの茶会、広間での席 | 正式な茶事、濃茶の席 |
| 取り方 | 大皿のようにみんなでシェアする感覚 | 一人分ずつ取り分ける、または一段ずつ受け取る |



初心者のうちは、「四角い重箱なら縁高、それ以外の蓋付きなら食籠」とざっくり覚えておけば、まずは安心です。
食籠の種類と季節による使い分け
茶道において「季節感」は非常に重要です。
食籠も季節によって素材やデザインを衣替えします。
ここを知っていると、お茶席での鑑賞眼がぐっと深まります。
炉(11月〜4月)は温かみのある「漆器」
寒い季節(炉の季節)には、「漆器(しっき)」=塗り物の食籠が主に使われます。
漆の艶やかな黒や朱色は、冬の茶室に温もりを灯します。
また、器自体が軽く、手に持った時にヒヤッとしないのも、客に対する亭主の心遣いです。
風炉(5月〜10月)は涼やかな「陶磁器」
暑い季節(風炉の季節)には、「陶磁器(とうじき)」=焼き物の食籠が登場します。
つるっとした磁器や、味わい深い陶器は、見た目に清涼感があります。
特に夏場は、青磁(せいじ)や染付(そめつけ)などの青や白を基調とした器が好まれます。
丸形から多角形まで多彩な形状
食籠の形は実にユニークで、見ていて飽きません。
- 丸形:最も一般的で扱いやすい形。
- 多角形:六角形や八角形など、シャープな印象。
- 具象形:メロン、カボチャ、ひょうたんなどの形をした遊び心あるものも。
【実践編】食籠の扱い方といただき方の作法
さて、ここからが本番です。
実際にお茶席であなたの前に食籠が運ばれてきたときのシミュレーションをしましょう。
自分の前に食籠が回ってきたら
前の客から回ってきたら、まず自分の正面(膝前)に置きます。
- 隣の客(次客)に向かって「お先に(おさきに)」と一礼(真の礼)。
- 亭主(お点前をしている人)に向かって「頂戴いたします」と一礼(真の礼)。
蓋(ふた)の取り方と置く位置のルール
ここが最初の難関、蓋の扱いです。
片手は厳禁!必ず両手を添えて蓋を持ち上げます。
- 基本(塗り物など):蓋を裏返して、自分の右側に置きます。
- 共蓋(ともぶた)の場合:器と同じ焼き物素材の蓋は、ガチャッと音がしたり欠けたりするのを防ぐため、裏返さずにそのまま置く場合もあります。
自分の膝の右横、または畳の縁(へり)の内側などに置きます。お菓子を取る動作の邪魔にならない位置が基本です。
黒文字・お箸の正しい使い方
蓋を開けると、中にお菓子と、取り分けるための「黒文字(くろもじ:木の楊枝)」や「お箸」が入っています。
- 持ち方:右手で箸を取り、左手で下から支え、右手を持ち直して使います(食事の箸使いと同じ三手扱い)。
- 注意点:箸先を舐めるのは絶対にNG!これは自分専用ではなく、連客みんなで使う「取り箸」です。
お菓子の取り方と懐紙へののせ方
懐紙の束を出し、輪を手前にして手元に置きます。
箸を使って、お菓子を一つ取ります。
- 基本的には、自分に近いものや、並び順で想定されているものを取ります。
- 隣のお菓子を崩さないように優しく扱いましょう。
懐紙の中央にのせます。
使い終わった箸は、懐紙の角(または持参した菓子切り用の紙)を使って、箸先についたあんこなどを拭き取ります。
- 重要ポイント:次の人のために、箸先をきれいにするのがマナーです。
箸を食籠の縁、または蓋の上(元の位置)に戻します。
次の客へ食籠を送る際のマナー
蓋を閉める:両手で蓋を持ち、静かに閉めます。絵柄がある場合は、きちんと正面が合うように配慮しましょう。
送る:両手で食籠を持ち上げ、次の客との間(畳の縁外)に置きます。重い陶磁器の場合は、畳の上を引きずらず、必ず持ち上げて移動させましょう。
初心者が気をつけたい食籠の扱いポイント
失敗しやすいポイントを事前に知っておけば、怖いものなしです。
蓋を落とさないための「手」の添え方
特に漆器の蓋は軽くて滑りやすく、陶磁器の蓋は重くてツルッといきがちです。
親指をしっかり縁にかけると安定します。
漆器と陶磁器で異なる重さと質感
漆器
見た目より軽いです。「重いだろう」と思って力むと、勢い余って蓋が浮いてしまうことがあります。
陶磁器
見た目より重いことが多いです。
特に大きな食籠はズッシリきます。
「軽いだろう」と思って片手で扱おうとすると、手首を痛めるか、最悪の場合は落としてしまいます。
中の黒文字を汚さないための配慮
お菓子を取った後の黒文字(取り箸)に、べったりとあんこがついたまま戻されていたら……次の人はちょっと嫌な気持ちになりますよね。
懐紙の端で箸先を拭う動作は、「私は次の人のことを考えていますよ」という美しいサインです。
ゴシゴシ拭くのではなく、スッとスマートに拭きましょう。
知っておくと楽しい食籠の歴史と鑑賞
作法に慣れてきたら、食籠そのものを鑑賞する余裕が出てきます。
道具の背景を知ることも、茶道の大きな楽しみの一つです。
元々は食べ物を入れる器だった歴史
前述の通り、食籠はもともと中国で「食べ物を入れるカゴ」でした。
日本に伝わった際、茶人たちが「これを茶席の菓子器に見立てて使ったら面白いんじゃない?」と考えたのが始まりだと言われています。
亭主の「おもてなし」が表れる意匠
食籠の蓋には、季節の花や縁起の良い絵柄が描かれていることが多いです。
「今日は春だから桜の絵だな」「お祝いの席だから鶴の絵だな」
そんな亭主のメッセージに気づけると、無言の会話が生まれ、お茶席がもっと豊かになります。
有名な産地や作家を知る楽しみ
食籠には、日本各地の伝統工芸の技が詰まっています。
輪島塗(わじまぬり)
堅牢で美しい漆器の代表格。
京焼(きょうやき)
華やかな絵付けが特徴の陶磁器。
織部(おりべ)
緑色が特徴的で、歪んだ形がユニークな焼き物。



お茶会で「これはどこの焼き物ですか?」と正客(一番偉い客)が尋ねているのを耳にしたら、ぜひ注目してみてください。
AFTERWORD
まとめ:食籠の作法を身につけてお茶席を楽しもう
食籠(じきろう)は、単なるお菓子入れではありません。季節を伝え、亭主の心遣いを運び、客同士が「お先に」「どうぞ」と心を交わすためのバトンのような存在です。
- 読み方は「じきろう」。
- 冬は温かい漆器、夏は涼しい陶磁器が使われる。
- 蓋は両手で扱い、箸先は懐紙で清めてから戻す。
最初は緊張して、蓋の重さに驚いたり、箸を持つ手が震えたりするかもしれません。
でも大丈夫、誰でも最初は初心者です。
「美味しそうな宝石箱が回ってきた!」くらいの気持ちで、食籠との出会いを楽しんでくださいね。
さあ、次のお稽古では、自信を持って食籠の蓋を開けてみましょう!





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