茶道を始めたばかりの頃、お稽古で一番緊張するのは「お菓子が出された瞬間」ではないでしょうか?
「この器、どうやって持つの?」「お菓子はいつ取ればいいの?」と冷や汗をかきながらでは、せっかくの美味しいお菓子も味がわからなくなってしまいますよね。
茶道の主役はもちろんお茶ですが、その引き立て役であり、時には主役級の存在感を放つのが「菓子器(かしき)」です。
菓子器(かしき)とは、和菓子や洋菓子を盛り付けて出すための器のことです。
茶席や会席、日常の茶菓子の場で使われ、素材は陶磁、漆器、木、金属などさまざま。
この記事では、茶道初心者が知っておきたい菓子器の種類や扱い方、マナーについて、徹底解説します。
これを読めば、次のお稽古から自信を持って「お菓子を頂戴」できますよ!
茶道の「菓子器」とは?基本の役割と分類
茶室に入り、美しいお菓子が入った器が運ばれてきたら、まずはその器自体に注目してみましょう。
菓子器は、亭主(ホスト)から客(ゲスト)への「無言のメッセージカード」のような役割を果たしています。
おもてなしの心を伝える菓子器の重要性
「今日は暑いから、涼しげなガラスの器で涼んでください」
「秋が深まってきたので、紅葉の絵柄で風情を楽しんでください」
亭主は言葉で説明する代わりに、器の素材やデザインで季節感やおもてなしの心を表現します。
客としてそのメッセージを受け取り、「素敵な器ですね」と心の中で(時には言葉にして)対話を楽しむ。
これが茶道具としての菓子器の醍醐味です。
「主菓子器」と「干菓子器」の大きな違い
まず押さえておきたいのが、菓子器の2大分類です。
ここを混同すると、カレーライスを味噌汁椀で食べるようなチグハグさが生まれてしまいます。
以下の表で、その違いを整理しました。
| 分類 | 読み方 | 入れるお菓子 | 特徴 | 使われる主な場面 |
| 主菓子器 | おもがしき | 主菓子(練り切り、饅頭など水分が多い生菓子) | 格調高く、深さや蓋があるものが多い | 濃茶(こいちゃ)※薄茶でも使用あり |
| 干菓子器 | ひがしき | 干菓子(落雁、煎餅、金平糖など乾いたお菓子) | 平たい盆や皿、カゴなど種類が豊富 | 薄茶(うすちゃ) |
日本茶アドバイザーパトラッシュ♂ざっくり言うと、「しっとり系は主菓子器、カリカリ系は干菓子器」と覚えておけば、大きな間違いはありません。
【主菓子器】濃茶・薄茶で使われる主な種類
主菓子器は、茶事のメインディッシュとも言える「主菓子」を盛るためのステージです。
ここでは代表的な4つのスター選手を紹介します。
格調高い正式な器「縁高(ふちだか)」
「まるで高級なお弁当箱?」と思ったあなた、いい線いってます。
縁高は、正方形の重箱のような形をした、非常に格式高い菓子器です。
- 特徴:黒塗りの漆器が一般的で、正式には5段重ねで使用します(客の人数によって段数は調整されます)。
- 注意点:1段に1個ずつお菓子が入っています。「私の分はどれ?」と迷う心配はありませんが、器ごと次の人に回すという独特の作法があります。うっかり自分の手元にキープしないように注意しましょう。
親しみやすい「菓子鉢」と「銘々皿」
もっとも頻繁にお目にかかるのが、ボウル型の「菓子鉢(かしばち)」と、個別に配られる「銘々皿(めいめいざら)」です。
菓子鉢
陶磁器製が多く、デザインも華やかなものから渋いものまで多種多様。
お菓子が人数分まとめて盛られているので、そこから自分の分を取り分けます。
「最後の1個を取る遠慮の塊」現象が起きないよう、スマートに取りましょう。
銘々皿
一人一人に個別に配られる小さなお皿です。
取り回しのプレッシャーが一番少ない、初心者にとっての「安心設計」な器と言えるでしょう。
蓋付きで温かさを保つ「食籠(じきろう)」
「じきろう」という響き、なんだか強そうですよね。
これは蓋付きの菓子器のことです。
役割
【干菓子器】薄茶席で楽しむ器の種類
薄茶席で登場する干菓子器は、素材も形も自由奔放。
見ているだけで楽しくなるようなデザインがたくさんあります。
- 素材や形が豊富な「盆」と「高坏」
- 茶箱点前で活躍する「振出(ふりだし)」
素材や形が豊富な「盆」と「高坏」
干菓子盆
丸、四角、多角形など形はさまざま。
漆塗りや木地のものが一般的です。
お盆の上に、2種類のお菓子(有平糖と落雁など)が美しく配置されていることが多いです。
高坏(たかつき)
脚がついたお皿です。
神様にお供えをするような神聖な雰囲気がありつつ、高さが出るので茶席のアクセントになります。
茶箱点前で活躍する「振出(ふりだし)」
「これ、胡椒入れ?」いいえ、違います。
これは「振出」という、茶箱(ちゃばこ)点前で使われる小さなボトル型の菓子器です。
- 中身:金平糖や甘納豆など、小粒のお菓子が入っています。
- 使い方:その名の通り、振って中身を出します。
- 注意点:勢いよく振りすぎて、金平糖が畳の上に「バラバラバラッ!」と散らばる大惨事は、初心者の誰もが恐れる悪夢。優しく、慎重に振るのがコツです。
茶席の季節感を演出する「素材」と「意匠」
日本には四季があり、茶道には「季節感の演出」という絶対的なルール(という名の楽しみ)があります。
菓子器も衣替えをして、その時期ならではの風情を楽しみます。
季節ごとの菓子器の選び方リスト
| 季節 | おすすめの素材・形状 | 演出のポイント |
| 夏 | ガラス(ギヤマン)平鉢(ひらばち) | キラキラと光を反射するガラスや、口が広く浅い「平鉢」で、視覚的な涼しさを届けます。水面を連想させるデザインが人気です。 |
| 冬 | 厚手の陶器漆器 | ぽってりとした土の器や、手に吸い付くような漆の質感で温もりを伝えます。お菓子が冷めにくい深めの鉢が好まれます。 |
| 春 | 華やかな陶磁器木地 | 桜や菜の花、蝶々の意匠で春の訪れを祝います。明るい色味の器が選ばれることが多いです。 |
| 秋 | 竹製品渋い焼き物 | 紅葉、月、栗、柿などのデザイン。詫び寂びを感じさせる落ち着いたトーンが似合います。 |
季節の植物や行事に合わせた選び方
「あ、この器、ウサギの絵が描いてある!今年はお月見だからか!」と気づいた瞬間、あなたはもう茶道通の入り口に立っています。
節分なら「枡(ます)」の形、お正月なら「羽子板」の形など、行事に合わせたユニークな器が登場することもあります。
初心者が押さえたい菓子器の扱い方とマナー
さて、いよいよ実践編。
ここさえ押さえれば、お茶会も怖くありません。
基本的な流れをシミュレーションしてみましょう。
菓子器の受け取り方と回し方
菓子器があなたの前に回ってきました。さあ、どうする?
まず、隣の人(まだお菓子を取っていない次の客)に「お先に」と一礼。
菓子器を両手で少し持ち上げ、軽くお辞儀(押しいただく)。
自分の前の畳、縁の内側に置きます。



「重っ!」と思っても、顔に出さないのがスマートな茶人です。
黒文字と手を使ったお菓子の取り方
ここが一番の緊張ポイント、お菓子のピックアップです。
主菓子の場合(黒文字を使用)
- 菓子器に添えられている箸(黒文字)を取ります。
- 左手を器に軽く添え、右手で箸を使ってお菓子を一つ持ち上げます。
- 自分の懐紙(かいし)の中央に乗せます。
- 重要:使い終わった箸は、懐紙の端で汚れをサッと拭き取り、元の位置に戻します。箸先が汚れたまま戻すのはマナー違反です!
干菓子の場合(手を使用)
- 基本的に手づかみでOKです。
- 数種類ある場合は、違う種類を一つずつ取って懐紙に乗せます(通常は2種類)。
- 「あ、やっぱりこっち!」と一度触ったお菓子を戻すのは厳禁。「触ったら取る」、これ鉄則です。
蓋の開け閉めと拝見の所作
- 左手を器に添え、右手で蓋のつまみを持ちます。
- 蓋を裏返し、両手で扱って、器の右側(または流派指定の場所)に置きます。
- お菓子を取り終わったら、再び両手で蓋を戻します。



最後に、器を「拝見」する時間があれば、低い位置で全体を眺め、「良い仕事してますねぇ」と心の中でつぶやきながら、素材や絵柄を鑑賞しましょう。
初心者におすすめの菓子器の選び方
「自宅でもお抹茶を楽しみたい!」「お稽古用に一つ欲しい」という方へ、最初の一個の選び方を伝授します。
稽古用・自宅用に適した最初の1つ
いきなり何万円もする作家物の縁高を買う必要はありません。
まずは使い勝手を重視しましょう。
理由:主菓子も干菓子もどちらも盛れる「二刀流」として使えます。深すぎず浅すぎないボウル型がベストです。
長く使える汎用性の高いデザインとは
季節を問わない柄
「桜」や「紅葉」は素敵ですが、使える時期が数週間に限定されてしまいます。「幾何学模様」「松竹梅」「無地」などは一年中使えて便利です。
扱いやすい素材
最初は「塗り(合成漆器でもOK)」や「丈夫な陶磁器」がおすすめ。
ガラスは夏限定になりがちなので、2個目以降の楽しみに取っておきましょう。
AFTERWORD
菓子器を知って茶道の楽しみを広げよう
菓子器は、単なる道具ではなく、その日の茶席のテーマや亭主の心遣いを映し出す鏡です。
- 主菓子器と干菓子器の使い分けを知る
- 季節に合わせた素材の涼しさや温かさを感じる
- 基本的なマナーを身につけて、堂々と振る舞う
これらを少し意識するだけで、お茶席の景色はガラリと変わります。
次のお稽古では、ぜひ菓子器をじっくり眺めてみてください。
「おっ、今日は先生、この器で攻めてきたな」なんて思えたら、もう茶道が楽しくて仕方なくなるはずです。
さあ、美味しいお菓子と素敵な器で、心豊かな一服を楽しみましょう!





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