日本茶の代名詞「やぶきた」とは?
「普段どんなお茶を飲みますか?」と聞かれたら、多くの人が「緑茶」や「煎茶」と答えるかもしれません。
しかし、そのお茶、実は「やぶきた」という品種である可能性が非常に高いのです。
まるでお米にコシヒカリやササニシキがあるように、お茶にもたくさんの品種があります。

その数なんと120種類以上!!
その中でも「やぶきた」は、まさに日本茶界の絶対的エース。
あなたが何気なく飲んでいるその一杯は、かなりの確率で「やぶきた」かもしれません。
今回は、知っているようで意外と知らないお茶の王様、「やぶきた」の特徴にユーモアを交えて迫ります。
全国の茶園の7割以上を占める代表品種
驚くべきことに、「やぶきた」は日本の茶園面積のおよそ7割を占めていると言われています。
これはもう、クラスの7割が同じ苗字で埋め尽くされているような圧倒的シェア率です。
この誰もが知る存在感こそ、「やぶきた」が日本茶の代名詞と言われる所以なのです。
なぜ「やぶきた」はここまで広まったのか?その歴史
「やぶきた」の物語は、1908年(明治41年)に静岡県の篤農家、杉山彦三郎(すぎやまひこさぶろう)氏によって幕を開けます。
彼は、お茶の品質が樹によって異なることに着目し、独学で品種改良の研究を始めました。
自らの竹藪を開墾して作った茶園で試行錯誤を重ねた結果、竹藪の「北側」に植えた一本の茶樹が、ひときわ優れた品質であることを見抜きます。
これが「やぶきた(藪北)」という名前の由来となりました。
ちなみに、南側に植えられた「やぶみなみ」も存在しましたが、歴史の表舞台に立ったのは「やぶきた」でした。
彼の情熱と努力が実を結び、1953年に国の奨励品種に指定されると、「やぶきた」はその育てやすさと品質の高さから、全国へと爆発的に普及していったのです。
これぞやぶきた!
味・香り・見た目の特徴
では、なぜ「やぶきた」はこれほどまでに多くの人に愛されるのでしょうか。
その秘密は、誰もが「これぞ日本茶!」と納得する、味・香り・見た目の三拍子揃った素晴らしい特徴にあります。
- 旨味・甘み・渋みの絶妙なバランス
- 爽やかで力強い若葉のような香り
- 透き通った美しい黄金色の水色(すいしょく)
特徴1:旨味・甘み・渋みの絶妙なバランス
「やぶきた」最大の特徴は、旨味・甘み成分である「テアニン」と、爽やかな渋み成分である「カテキン」のバランスが非常に優れている点です。
どちらかが突出することなく、お互いを引き立て合うその味わいは、まさに「優等生」。
強すぎない上品な渋みと、しっかりとした旨味が調和し、毎日飲んでも飽きのこない、安心感のある美味しさを生み出しています。
特徴2:爽やかで力強い若葉のような香り
急須の蓋を開けた瞬間にふわっと立ち上る、爽やかで力強い若葉のような香りも「やぶきた」の大きな魅力です。
新緑の季節に森林浴をしているかのような、清々しく上品な香りは、飲む人の心をリフレッシュさせてくれます。
この香りは「やぶきた香」とも呼ばれ、お茶の品質を評価する上での一つの基準にもなっています。
特徴3:透き通った美しい黄金色の水色(すいしょく)
「やぶきた」を淹れたときのお茶の色(水色)は、少し黄色みがかった、透き通った美しい黄金色です。
グラスに注げば、光を受けてキラキラと輝き、飲む前から目を楽しませてくれます。
この美しい水色も、「やぶきた」が高級茶から普段使いのお茶まで、幅広く愛される理由の一つです。
やぶきたの秘密
栽培上の強み
「やぶきた」が全国区になった理由は、その美味しさだけではありません。
生産者である農家にとっても、非常に「育てやすい」という大きなメリットがあったのです。
- 寒さや環境変化に強く、育てやすい
- 品質が安定し、収穫量も多い
寒さや環境変化に強く、育てやすい
「やぶきた」は耐寒性が強く、日本の様々な気候や土壌に適応できるタフな性質を持っています。
そのため、北は東北地方から南は九州まで、幅広い地域での栽培が可能です。
この育てやすさが、全国の農家に選ばれる大きな要因となりました。
品質が安定し、収穫量も多い
毎年安定して高品質なお茶をたくさん収穫できることも、「やぶきた」の強みです。
天候に左右されにくく、安定した収穫が見込めることは、農家にとって大きなメリットです。
そして、それは私たち消費者にとっても、いつでも美味しい「やぶきた」が手に入るという安心感につながっています。
やぶきたを120%楽しむ!
美味しい淹れ方のコツ
せっかくの「やぶきた」ですから、そのポテンシャルを最大限に引き出して味わいたいもの。
ちょっとしたコツで、いつものお茶が格段に美味しくなります。
基本の淹れ方(1人分)
誰でも簡単にできる、やぶきたの特徴を活かす淹れ方をご紹介します。
沸騰したお湯を一度湯呑みに注ぎ、70〜80℃まで冷まします。
お湯の温度が高いと渋みが出やすくなります。湯呑みを温める効果も一石二鳥です。
急須に茶葉を入れます。(ティースプーンに軽く2杯、約5gが目安)
冷ましたお湯を急須に静かに注ぎ入れます。
最初慣れるまでは急須に3分の1程度の湯量を入れえて試してみよう
蓋をして約1分間、茶葉がゆっくり開くのを待ちます。
急須は揺らさず、静かに待つのが美味しくなる秘訣です。
濃さが均一になるよう、少しずつ交互に湯呑みに注ぎ分けます(廻し注ぎ)。最後の一滴まで絞り切りましょう。
最後の一滴は「ゴールデンドロップ」と呼ばれ、お茶の旨味が凝縮されています。
二煎目、三煎目の楽しみ方
「やぶきた」は、一煎淹れただけでは終わりません。
淹れるたびに変わる味わいのグラデーションを楽しみましょう。
- 二煎目: 一煎目よりも少し高めの温度(80〜90℃)のお湯を使い、蒸らし時間は10秒ほどと短くします。渋みと香りが引き立ち、キリッとした味わいが楽しめます。
- 三煎目: 熱湯を使い、蒸らさずにすぐに注ぎます。さっぱりとした味わいで、カフェインも控えめになるため、食事中のお茶にもぴったりです。
他の品種とどう違う?
やぶきたと人気品種を比較
「やぶきた」一強時代から、近年では個性豊かな品種も注目されるようになりました。
ここでは、人気のお茶の品種と「やぶきた」の特徴の違いを比べてみましょう。
品種名 | 特徴 | やぶきたとの違い |
やぶきた | 旨味・甘み・渋みのバランスが良い王道。爽やかな香りと黄金色の水色。 | 全ての基本となるバランス型。この味を基準に他の品種を試すと違いが分かりやすい。 |
さえみどり | 渋みが少なく、強い旨味と甘みが特徴。名前の通り、鮮やかな緑色の水色。 | 「やぶきた」に比べ、甘みと旨味が際立ち、水色(すいしょく)の緑色が濃い。高級煎茶によく使われる。 |
おくみどり | クセが少なく、すっきりとしたマイルドな味わい。爽やかな香りで飲みやすい。 | 「やぶきた」よりも渋みが少なく、より穏やかでさっぱりとした印象。抹茶の原料としても人気。 |
かなやみどり | ミルクを思わせるような独特の甘い香り(ミルキーフレーバー)が最大の特徴。 | 香りが非常に個性的で、「やぶきた」とは全く異なるキャラクターを持つ。海外でも人気が高い品種。 |
保存方法と注意点
お茶はとてもデリケートな食品です。美味しさを長持ちさせるためには、正しい保存方法が欠かせません。
お茶の品質を損なう5つの敵は「湿度・酸素・光・高温・移り香」です。
これらから茶葉をいかに守るかが、美味しさを保つ秘訣になります。
【未開封の場合】
購入した状態のまま、冷蔵庫や冷凍庫で保存するのがおすすめです。
ただし、庫内から出してすぐに開封するのは絶対にNG!温度差で袋の表面に結露が生じ、茶葉が湿気る原因になります。
必ず、飲む前日に冷蔵庫から出し、一晩かけて常温に戻してから開封してください。
【開封後の場合】
一度開封したお茶を冷蔵庫に入れるのは避けましょう。
冷蔵庫内の他の食品の匂いを吸収してしまい、お茶本来の風味が損なわれてしまいます。
- 密閉容器で光を遮断: 茶筒や、気密性の高いチャック付きの袋など、光を通さず、しっかりと密閉できる容器に移し替えましょう。
- 冷暗所で常温保存: 直射日光が当たらず、涼しい場所(食器棚など)で保管するのが基本です。
- 早めに飲み切る: 開封後は、空気に触れることで少しずつ酸化が進みます。美味しいうちに飲み切るのが一番です。できれば夏場は2週間、冬場でも1ヶ月程度で飲み切るようにしましょう



もし風味が落ちてしまったと感じたら、フライパンで軽く乾煎りして「自家製ほうじ茶」にするのもおすすめです。
焦がさないように弱火でじっくり煎れば、香ばしいほうじ茶として最後まで美味しく楽しめます。
AFTERWORD
やぶきたを知れば、お茶はもっと楽しくなる
日本茶の絶対的王者「やぶきた」。
その歴史や特徴を知ることで、いつもの一杯が少し違って、もっと愛おしく感じられるのではないでしょうか。
旨味、甘み、渋みの黄金バランスを持つ「やぶきた」は、まさに日本茶のスタンダード。
この味を基準に、「今日は甘みが強い“さえみどり”にしてみよう」「香りが特徴的な“かなやみどり”も試してみたい」と、気分に合わせて他の品種を選んでみるのもお茶の新しい楽しみ方です。
「やぶきた」という最高の基準を知ることは、広大で奥深いお茶の世界を探求するための、最高の羅針盤を手に入れることと同じなのです。
さあ、あなたも「やぶきた」を片手に、新たなお茶の扉を開いてみませんか?
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