露地栽培と被覆栽培:お茶の個性を生む二大栽培法
お茶の奥深い沼へようこそ。
ここでは日々、お茶の個性をめぐる熱い議論が交わされています。
その中でも特に重要なのが、栽培方法の違い。
今回は、お茶の味わいを決定づける二大巨頭、「露地栽培(ろじさいばい)」と「被覆栽培」について、愛とユーモアたっぷりに解説します。

太陽を愛するワイルドな野生児か、日傘をさす箱入り令嬢か。
今回は、太陽の恵みを一身に浴びて育つ元気いっぱいな「露地栽培」のお茶に、徹底的にスポットライトを当てていきましょう。
露地栽培とは? – 自然の力を最大限に活かす伝統農法
露地栽培とは、その名の通り、茶畑を覆うことなく、太陽の光をさんさんと浴びせてお茶を育てる、最も自然で伝統的な栽培方法です。
いわば、お茶界のスパルタ教育!燦々と降り注ぐ太陽光を光合成のエネルギーに変え、雨風に耐えながら、お茶の木は自らの力でたくましく成長します。
この露地栽培で育った茶葉は、その土地の気候や風土といった自然環境のすべてをその身に刻み込みます。
晴れの日も、雨の日も、霧深い朝も、そのすべてが唯一無二の個性となるのです。
私たちが日常的に楽しむ煎茶や番茶の多くが、この露地栽培によって作られています。
まさにお茶界の「アウトドア派」、それが露地栽培茶なのです。
被覆栽培との違い – 光が生み出す成分の変化
一方、露地栽培の対極に位置するのが「被覆栽培」です。
こちらは、収穫前の一定期間、茶園に「よしず」や黒い「寒冷紗(かんれいしゃ)」といった覆いをかけ、意図的に日光を遮って育てる方法。
このまるで箱入り娘のような育て方により、お茶の成分は劇的に変化します。
日光を遮ることで、茶葉の中で起こる「うまみ成分(テアニン)→渋み成分(カテキン)」という化学変化が抑制されます。
その結果、玉露やかぶせ茶、抹茶(碾茶)のように、渋みが少なく、濃厚なうまみと「覆い香(おおいか)」と呼ばれる独特の香りを持つお茶が生まれるのです。
栽培方法 | 日光の扱い | 主な成分の変化 | 味わいの特徴 | 代表的なお茶の種類 |
露地栽培 | たっぷり浴びる | テアニンがカテキンに変化しやすい | 爽やかな渋み、すっきりした後味 | 煎茶、番茶、ほうじ茶 |
被覆栽培 | 意図的に遮る | テアニンがカテキンに変化しにくい | 濃厚なうまみ、覆い香 | 玉露、抹茶(碾茶)、かぶせ茶 |
つまり、日光を浴びるか浴びないかで、お茶のキャラクターは「爽やか活発系」か「おっとり旨味系」かに分かれるのです。面白いですよね?
露地栽培茶の魅力
成分と味わいの科学
では、太陽の下で元気に育った露地栽培茶には、具体的にどのような魅力が隠されているのでしょうか。
その秘密を、成分という科学的な視点から紐解いていきましょう。
カテキンが豊富 – 爽やかな渋みと健康への貢献
露地栽培の最大の特徴は、なんといってもポリフェノールの一種である「カテキン」が豊富なこと。
カテキンは、お茶特有の爽やかな渋みの元となる成分で、日光を浴びることでうまみ成分のテアニンから生成されます。
この心地よい渋みこそが、お茶らしい味わいを生み出し、眠たい午後の気分をシャキッとさせてくれるのです。
さらに、カテキンは健康面でも注目の的。
近年の研究では、その強力な抗酸化作用や、体脂肪を減らすのを助ける働きなどが報告されています。
「おいしくて体に良い」を地で行く成分と言えるでしょう。
太陽のエネルギーが、私たちの健康にもパワーをくれるなんて、なんだか得した気分になりますね。
テアニンとの絶妙なバランス – 煎茶ならではの味わい
「じゃあ、露地栽培茶は渋いだけなの?」と思ったあなた、それは早計です。
露地栽培で作られる煎茶の真髄は、豊富なカテキンがもたらす「爽やかな渋み」と、テアニン由来の「うまみ・甘み」が織りなす絶妙なバランスにあります。



甘いだけでも、渋いだけでもない。この複雑で奥深い味わいのハーモニーこそが、煎茶の最大の魅力。
だからこそ、毎日飲んでも飽きることがなく、私たちの日常に深く根付いているのかもしれません。
豊かな香りの源泉 – 自然環境が育むアロマ
露地栽培茶のもう一つの魅力は、その豊かな香りです。
淹れたてのお茶から立ち上る清々しい香りは、まるで新緑の森を散歩しているかのよう。
この「若葉の香り」は、「青葉アルコール」といった成分によるものです。
また、製茶工程の最後に行われる「火入れ」によって生まれる「火入れ香(ひいれか)」も、お茶の香りを特徴づける重要な要素。
産地の気候や製法によっても香りは千差万別に変化し、無限のアロマが楽しめます。



太陽と大地、そして人の技が織りなす香りのシンフォニーを、ぜひ五感で感じてみてください。
露地栽培に適したお茶の種類
露地栽培という伝統的な農法は、私たちの日常に寄り添う、馴染み深いお茶を生み出しています。
煎茶 – 日本茶の王道
日本茶と聞いて多くの人が思い浮かべる「煎茶」。
そのほとんどが露地栽培によって作られています。
太陽の光をいっぱいに浴びて育った茶葉を蒸して揉みながら乾燥させることで、爽やかな香りと心地よい渋み、そしてうまみが調和した、日本茶の王道たる味わいが生まれます。
産地や品種、収穫時期によって驚くほど多様な個性を見せるのも、煎茶の奥深い魅力です。
番茶・ほうじ茶 – 日常に寄り添うお茶
煎茶の収穫時期より後に摘んだ葉や、大きく育った葉、茎などから作られるのが「番茶」です。
同じく露地栽培で育てられ、カテキンは豊富ですがカフェインは比較的少なめ。
さっぱりとした味わいで、地域によっては独特の製法で作られる個性的な番茶も存在します。
そして、この番茶や煎茶を強火で焙煎(ほうせん)して作られるのが「ほうじ茶」。
カフェインが少ないため、お子様からお年寄りまで、時間帯を問わずに楽しめる、まさに日常に寄り添うお茶です。
露地栽培茶を深く味わうための知識
さあ、ここからはお茶マニアの領域です。
露地栽培茶をさらに深く、マニアックに楽しむための知識を伝授しましょう。
これを読めば、あなたも明日から「お茶、分かってるね」と言われること間違いなしです。
産地ごとの気候と土壌がもたらす風味の違い
お茶はワインの世界で言う「テロワール(生育環境)」が味わいに大きく影響します。
同じ露地栽培でも、産地の気候や土壌によって、その個性は驚くほど異なります。
- 京都府(宇治): 宇治川から立ち上る霧が自然の日光調整役となり、上品でまろやかな味わいを生み出します。玉露が有名ですが、露地栽培の煎茶もまた格別です。
- 静岡県: 日照時間が長く温暖な気候。爽やかな香りとバランスの取れた味わいが特徴で、「普通蒸し茶」から濃厚な「深蒸し茶」まで製法の幅も日本一。


- 鹿児島県: 温暖な気候と広大な茶園で育つお茶は、力強く濃厚な味わいが魅力。特に「深蒸し茶」が有名で、美しい緑色の水色が楽しめます。
これらはほんの一例。他にも、力強い味わいの埼玉「狭山茶」や、玉露でも有名な福岡「八女茶」の煎茶など、各地に個性豊かな露地栽培茶が存在します。
産地ごとの違いを飲み比べる「テイスティングの旅」に出てみるのも、お茶マニアの醍醐味です。
品種による特徴 – 「やぶきた」だけではない多様な世界
現在、日本の茶園の大部分を占めるのが「やぶきた」という優等生品種です。
しかし、お茶の世界は「やぶきた」だけではありません。
近年は、個性豊かな様々な品種が注目を集めています。
- さえみどり: 鮮やかな緑色と、渋みが少なく濃厚なうまみが特徴。
露地栽培でもそのポテンシャルを存分に発揮します。 - おくみどり: やぶきたより少し収穫が遅い「晩生(おくて)」品種。
すっきりとした香りと、穏やかで上品なうまみが楽しめます。 - ゆたかみどり: 鹿児島県を中心に栽培される早生品種。
力強いコクと鮮やかな水色が特徴で、一度飲んだら忘れられないインパクトがあります。
これらの品種茶を飲み比べて、「こっちは柑橘系の爽やかさ!」「あっちはミルクのような甘い香り…」などと語り合うのも、また一興です。
美味しい淹れ方のコツ – 温度と時間で引き出す個性
露地栽培茶のポテンシャルを120%引き出すには、淹れ方が極めて重要です。
特に「お湯の温度」と「抽出時間」が味わいを左右する鍵となります。
基本の淹れ方(煎茶の場合)
沸騰したお湯を一度湯呑みに注ぎ、70℃~80℃まで冷まします。高温で淹れると渋み成分のカテキンが強く出すぎるため、少し冷ますのがポイント。
1人あたりティースプーン1杯(約5g)が目安です。
各湯呑みに少しずつ均等に注ぎ分け(廻し注ぎ)、お茶のうまみが凝縮された「ゴールデンドロップ(黄金の一滴)」まで、大切に注ぎ切りましょう。



あえて高温で淹れてキリッとした渋みを楽しんだり、氷水でじっくり抽出して極上のうまみを引き出したりと、淹れ方一つで表情を変えるのも露地栽培茶の面白さ。ぜひ自分だけの「黄金レシピ」を探求してみてください。
AFTERWORD
太陽と大地の恵み、露地栽培茶の真価
太陽の光を全身で受け止め、雨風に耐え、大地にしっかりと根を張って育つ「露地栽培」のお茶。
その味わいは、自然そのものの力強さと爽やかさ、そして奥深さに満ちています。
豊富なカテキンがもたらす心地よい渋み、テアニンとの絶妙なバランスが生み出す複雑なうまみ、そして若葉のような豊かな香り。
これらすべてが、露地栽培茶ならではの、かけがえのない魅力なのです。
煎茶や番茶、ほうじ茶といった、私たちの日常に溶け込むお茶の多くが、このたくましい育てられ方をしていると知ると、いつもの一杯が少し違った、特別なものに感じられませんか?
さあ、あなたも太陽と大地の恵みがギュッと詰まった露地栽培茶を片手に、その奥深い世界を探求してみましょう。
きっと、お茶の新たな魅力と、忘れられない一杯に出会えるはずです。
コメント